取材記事

ひたすら前へペダルを踏み,自転車競技の未来を切り拓く

 2016年に創設された広島のロードレース(自転車競技)チーム,VICTOIRE(ヴィクトワール)広島。チーム名はフランス語で「勝利」を意味し,闘志みなぎるオレンジ色をチームカラーに据える。


 これまではプロチームと実業団チームが混在するJプロツアーに参戦し,地域密着型のチームを目標に掲げてきたが,2021年からは,新たに立ち上がったJCLジャパンサイクルリーグに参入し,より地域に寄り添い一体となった存在を目指している。

 
 取材を行った6月現在は,7月10日(土)「広島トヨタ広島ロードレース」,11日(日)「広島トヨタ広島クリテリウム」と,2つの地元開催の大会に向けて準備中。代表取締役であり監督も務める中山卓士さんに話を聞いた。

◆演出やライブ映像が充実する新リーグ

―今シーズンから参入するJCLジャパンサイクルリーグとは,どんなリーグですか?―

 UCI国際自転車競技連合に加盟している日本籍コンチネンタルチームと,地域密着型ロードレースチームで構成されているプロのロードレースリーグです。地域密着型の活動に力を入れ,これからのロードレースの業界を盛り上げていくことを思想に掲げています。その理念に共感した9チームで構成されており,全国各地でレースを行って競います。今は立ち上がったばかりで,まだ盛り上がりも充分ではありません。多くの方に応援していただけるよう,片山右京チェアマンもアピールに力を入れていこうとされています。


―JCLジャパンサイクルリーグになったことによって,これまでと変わったことはありますか?―

 大型ビジョンが設置されるなど,演出が変わりました。特に,ライブ映像の配信に力を入れています。目指すのは,現地に行かなくても「ツール・ド・フランス」(世界最大の自転車リードレース)のような映像美を見られるようにすること。3月に宇都宮市で開催されたクリテリウム(自転車競技のロードレースの一つ)から,取り組みが始まっています。

◆選手の速さや躍動感を間近で感じて

―初心者でも楽しめる自転車競技の観戦ポイントについて教えてください。―

 一番は,選手たちをとても近くで感じられるところだと思います。まず会場に着くと,全国のチームの選手たちがすぐ間近にいて,臨場感を味わえます。そしてレースが始まると,猛スピードで自転車の集団が目の前を走り抜けていくので,風や音,選手たちの息づかいなど迫力満点。まずはセレモニーから会場に来ていただいて,こういう選手がいるんだなと知ってもらいたいです。注目は,エースの阿曽圭佑選手と,広島出身の中村圭佑選手。阿曽選手は必ず結果を出すオールラウンダーで優勝候補です。中村選手は積極的な走りに注目して見てください。


―7月10日(土)の「広島トヨタ広島ロードレース」は,広島県中央森林公園サイクリングコース。7月11日(日)の「広島トヨタ広島クリテリウム」は商工センターでの開催と,走る場所が全く異なります。それぞれで観戦の仕方も変わりますか?―

 そうですね。「広島トヨタ広島クリテリウム」を行う商工センターは,1周1.7kmのコースをグルグルと回って走るので,目の前を走り抜けていく様を何度も見ることができます。一方,広島県中央森林公園サイクリングコースが舞台の「広島トヨタ広島ロードレース」は,1周12.3 kmなので,YouTubeで配信されるライブ映像を見ながら楽しむのがおすすめです。

―2日間連続でのレースとなりますが,2日目に疲労の影響が残りそうな気もします。―

 ロードレースって,競技によっては30日ぐらいずっと続けて走ることもあるんです。なので,そのぐらいは走り続けられるようにトレーニングをしています。


―30日!? ビックリです! 強固なトレーニングを積んでおられるのですね。―

 トレーニングだけでなく,体のケアも大切にしています。全身運動なので,マッサージなどは念入りに行っていますよ。


―レースは観戦する以外の楽しみ方もありますか?―

 コロナ禍以前のクリテリウムでは,一般の人達が参加できるパレードランを実施していました。1.7 kmのコースを選手たちと一緒に走るんです。ストライダーに乗った小さなお子さんや,ママチャリに乗った人など,1200人ぐらいのいろいろな方が集まってくださって,すごく楽しい雰囲気でしたよ。あとは,地元のパフォーマーによるステージや,グルメ屋台,ボディペイントなども用意して,お祭りのような楽しみ方をしていただけていました。今年はこのような企画をすることはできませんが,「ひろしまけいりん」さんとコラボして,子どもたちのキックバイク体験会を開催したいと調整中です。また,感染対策として,スタッフが各会場を管理し,分散して観戦していただくよう呼びかけを行うつもりです。


―家族連れも楽しめるような工夫がされているのがいいですね。グルメ屋台などで賑やかに開催できる日が待ち遠しいです。―

 自転車競技に興味がないという方に,気軽に来ていただけるようなイベントにしたいんです。ゆくゆくは,スイーツフェスタのような企画もやってみたいと思っています(笑)。

◆交流しながら自転車マナーアップを推進

     (コロナ禍以前の自転車交通マナー講習会)

―チームの設立当時から,自転車交通マナーの講習会を開催されています。ー

 広島県警や自治体のほか,学校から直接オファーをいただくこともあります。ご依頼いただければ,どこへでも伺うつもりです。小中高生が多いのではと思われますが,保育園や企業へ訪問することもあります。保育園ではストライダーを使って信号を守ることを伝えたり,年齢によって教えることを変えるようにしています。

 企業への訪問では,大人がちゃんと交通マナーを知ることの大切さを感じますね。大人が知らないから子どもに伝わっていない交通マナーがあると思うので。交通安全啓発活動はとても大切なことなので,続けていきたいと思っています。

     (コロナ禍以前の自転車交通マナー講習会)

―選手が教えに来てくださると,参加される皆さんもうれしいと思います。―

 女の子たちが選手に握手を求めて列を作ってくれたこともあります。小学校からは後日,お手紙をいただいて,こういうところが分かりやすかったとか,楽しかったとか感想が書かれていました。そういった反応をいただくと僕たちもすごくうれしいし,楽しくないと覚えられないと思うので,開催して良かったと思っています。僕たちも皆さんとの触れ合いが楽しいです。

 コロナ禍で訪問する機会が少なくなってしまいましたが,昨年は山陽高校からオファーがあり,自転車安全動画を制作しました。こういう時でもできることに取り組んでいきたいと思っています。


―コロナ禍で自転車が注目を集めています。―

 購入される方が増えて,自転車屋さんの在庫がなくなるぐらい売れているそうですね。通勤,通学で使用される方が多いと思いますが,スポーツとしての楽しみ方をレクチャーする機会を作っていきたいと思っています。自転車は一人でストレス発散ができるので,今の時代にピッタリですしね。しまなみ海道のサイクリングコース以外にも,広島県内のいろいろなところに,サイクリングロードをつくることができたらいいなと思っています。

◆広島の皆さんとチームを育てていきたい

―中山さんは20代でVICTOIRE広島を創設し,現在はチームの運営会社であるCYCLE LIFE株式会社の代表取締役,そして監督も務められています。とても精力的に活動されておられますが,その原動力は?―

 僕が4年間在籍していたベルギーでは,自転車は日本での野球のようにメジャーな競技で,誰でも選手の名前を知っているし,レースの結果が日常会話で出てくるような文化でした。

 しかし,日本ではまだロードレースの認知度が低く,日本代表になっても自転車で生活していくことが困難な状況です。それでも目標を持って頑張っている選手たちがいるので,彼らがプロになったときに報われるように,なんとしてでもロードレースをメジャーにしたい。そして,いつか「ツール・ド・フランス」のような世界的なレースに,日本人選手が出場して戦えるようなレベルまで押し上げていきたい。微々たる活動でも続けていくことで,自転車の魅力を伝えていきたいと思っています。

―最後に,広島の皆さんにメッセージをお願いします。―

 広島にはカープやサンフレッチェなどたくさんのスポーツチームがあり,そこで暮らす皆さんは,スポーツを楽しむ術を知っておられると思うんです。VICTOIRE広島は,そんな広島の皆さんに応援していただき,一緒に育てていただけるようなチームになりたいと思っています。7月10日(土)と11日(日)のレースでは,ぜひオレンジ色のものを身に着けて,一体感や非日常感を味わっていただきたいです。応援よろしくお願いします!



【中山卓士 Takashi Nakayama】

 1989年,埼玉県出身。高校時代に自転車競技を始め,宇都宮ブリッツェンなどの国内チームに所属。2009年にツール・ド・北海道 第3ステージU23で1位,全日本選手権U23準優勝という輝かしい功績を残し,2012年からベルギーのチームに移籍。Le Bizet(ベルギー)5位,G.P.perenchies Fr UCI 1.2(フランス)49位という好成績を残す。2014年に帰国した後はシマノ鈴鹿ロード5ステージ・スズカ総合優勝。2016年にVICTOIRE広島を創設。チームの運営会社であるCYCLE LIFE株式会社の代表取締役でありながら監督も務める。

 本取材にご協力いただきましたVICTOIRE広島の関係者の皆様,本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 前岡/写真 ヴィクトワール広島)