コラム

地域とプロスポーツの今後

福山大学 経済学部 経済学科 スポーツマネジメントコース 講師 藤本倫史

根っからの野球少年でした

 福山大学経済学部経済学科講師の藤本倫史と申します。専門は「スポーツマネジメント」と「スポーツ社会学」です。この専門領域に関しては広島国際学院大学院在学中に立命館大学スポーツマネジメントスクールにも通い学びました。

出身は広島市で、小学校2年生からずっと野球をやっていた、根っからの野球少年でした。小学校2年生から4年生までは瀬戸内海の島で、小学校5年生から高校2年生までは、広島市内で野球をしていました。

なぜスポーツについての研究者になろうかと思ったかというと中学・高校と野球をやっているなかでプレイヤーとしての限界を感じたことが大きいです。とはいえ、将来はスポーツで食べていきたい、と高校生ながら思っていました。大学に入るきっかけは、まさにスポーツライターになりたいなと思ったからです。

そうやってスポーツライターを目指していた時に、プロ野球の球界再編問題が起きました。球団の合併問題、さらに広島市民球場が新しい球場に変わる問題などが浮上しました。その時に忘れられない思い出があるのですが、カープ球団に研究や地域スポーツ振興など様々な形で関わらせていただきました。同じ頃、日本にスポーツビジネスやスポーツマネジメントの学問領域が一般的に認知されるようになるタイミングでもありました。

野球で例えるならマウンドで起きている競技面などをスポーツライティングで伝えていくよりも、スポーツとお金、スポーツと地域活性化など欧米で進んでいる分野を突き詰めていくことが好きだと感じました。漠然とではありますが、この分野の研究者になることを目標として人生を歩んでいければと真剣に考えたのです。これが人生の大きな分岐点となりました。

大学院時代に体験したCRMの実践

(旧市民球場での試合の様子)

その時に私の活動で大きかったのが、カープに地域担当部というものがつくられたことです。当時、私は若者のカープ離れに危機を感じ、インターカレッジのスポーツ振興団体を設立しました。その時に球団関係者にもご協力いただき、若者をターゲットとしたイベント企画などをさせていただきました。また、オーナーの御厚意もあり、1軍チームの関東遠征などにも帯同し、貴重な体験を得ることができました。

私の大学2年生から4年生にかけての、このようなリアルな体験が現在の研究の原点となっています。

(スポーツ振興団体でのプレゼン時)

その後は大学院へ進学しました。大学院では、マツダのマーケティングや広報幹部を経験された指導教官のもと、カープのファン戦略について研究しました。その中で、大手広告代理店と共同研究でカープのCRMについてシュミレーションを行い、戦略について検討を行いました。

この研究は、検討段階には入ったものの導入には至りませんでしたが、自分の中で実践的な大きな経験となり、こちらも今日に繋がるスキルとなりました。

スポーツにおける広島市と福山市の違い

私が勤務している大学は広島県で人口規模が第2位の福山市にあります。以前は広島市に住んでいました。そのため広島市と福山市のスポーツというものの違いというものをよく感じます。福山というのは岡山と広島市の中間地点。西は三原から東は岡山にまたがる井原、そのあたりを備後地域といって中心地が福山市です。街としては長らく製造業を中心に、「ものづくり」の街としてJFEなどナンバーワン、オンリーワン企業や職人たちが引っ張ってきて歴史があります。

そのような「ものづくり」の企業や文化が福山を引っ張って、スポーツや観光、IT分野などには頼らずに成長してきたのです。しかし、現在はものづくりの街だけでは厳しい状況になってきました。街として今後のアイデンティティやコミュニティをどうしていくのか? スポーツだけではなく福山市をどうしていくか、という岐路に立っています。

(福山大学アメリカ研修)

福山市のスポーツに目を向けると、まずプロスポーツクラブがなく、そこは非常に大きいです。例えば地域の総合型クラブという形で福山ローズファイターズは地元企業が集まり社会人野球チームを運営されています。しかし、まだまだ市民に浸透しているといえる状態ではないと思います。

一方で、先ほども述べましたが福山市は全国に誇る企業やオンリーワン企業が多いという事実もあります。全国展開している企業も多い。

このような企業や文化をスポーツ、観光、ITなどと連携させていく必要があると思います。47万人都市であり、備後地域という経済圏があるのにプロスポーツクラブがないという勿体ない地域です。

人口的に中四国地域の中核都市で考えると、プロクラブのない都市は多くありません。中四国九州の中核都市まで広げても、それぞれの街にプロスポーツクラブ設立や大規模なスポーツイベントやキャンプ・合宿地誘致などをしている。そういった都市と比べて少しスポーツ文化という点では遅れをとっていると思っています。

現在、福山市では福山シティFCという総合型地域スポーツクラブがJリーグ入りを目指して奮闘されています。

そのような状況から広島県の可能性として本来は人口規模から考えても県内にJクラブが2つあってもおかしくないと思います。お互いのチームが共存共栄してやっていける可能性が大いにありますし、備後地域においてサンフレッチェとは違う経営やマーケティングができれば興味深いクラブ運営になる可能性があります。また松本市と長野市のように切磋琢磨できるライバル関係や、試合において将来的に広島ダービーができれば良い相乗効果が得られるのではないでしょうか。

個人的に福山シティFCとサンフレッチェを比較すると興味深い点が多いです。まず、立ち上げ方が全く違っています。サンフレッチェは、元は実業団チームで戦後から続くサッカーの御三家の一つ、格式のあるマツダサッカークラブからの脈々と繋がれる歴史がある。

一方、福山シティFCは新興球団として何もないところから地元の青年会議所メンバーが立ち上げたチームです。クラブの歴史も全然違いますし、経営や運営スタイルも全然違います。ファン・サポーターの方々は、それらを比較して応援されるのも面白いのでは思います。

今後の2つの研究テーマ

今後について、現在研究しているテーマは2つあります。一つはスポーツホスピタリティ、もう一つはスポーツSDGsです。

スポーツホスピタリティは、コロナ禍により、しっかり研究しなくてはいけないと強く思っています。特にスタジアム収入の面です。コロナによってスタジアムを満員にはできない。では、どうやって今後売り上げあげていくのか? まず、客単価を上げなくてはいけない。そのために各チームがお客様に付加価値の高いサービスを提供しなくてはいけません。

 例えば団体席です。会食や接待で使われるようにして、客単価の高いチケットを売らないといけない時代に入ってくると思われます。既にメジャーリーグなどはコロナ前から球場の2割くらいをラグジュアリーシートに作り変えています。

スポンサーにもそういったところが求められています。アメリカへ行ってインタビューすると球団幹部はそういうことを非常によく考えていました。これらの分野、日本はまだまだです。コロナ禍になり、まさにこの壁にブチ当たっています。オリンピック・パラリンピックを含めてスポーツ産業を根本から考えていかないといけません。

もう一つがスポーツSDGsです。先ほどと重なる部分がありますが、入場料収入ともう一つ大きいのがスポンサー収入です。企業が今までプロスポーツチームやスポーツイベントに出すお金は広告価値でした。

 自社企業をPR、もしくは商品をPRすることによりお金を出して下さっていた。ただ、コロナ禍の状況では、企業は広告宣伝費を削ります。スポーツに新たな社会的価値を持たせないといけない。例えばスポンサー営業をするときでも地元貢献プログラムや社会課題解決の意義をクラブとして考えて広告価値とともに営業するアプローチが必要になってくるのではないでしょうか。

今までプロスポーツチームはそれぞれの課題やオファーがあるところに対応してきたと思います。それを自発的に見せていかなくてはいけないように変化してきました。現在、世界的に注目されているSDGsをスポーツ界も本格的に導入することを考えていく必要があると思います。

このようなSDGsを含めた社会的価値の測定は、私の専門領域であるスポーツマネジメントの世界では急務になっています。私の研究の中ではスポーツSDGsの価値という部分を統一的にスポーツ界が考えて、17の目標と169のターゲットに向かって、どのようにプロスポーツチームとして取り組んでいくのかをしっかり見せていく。ここが今後、最も重要になると考えています。

現在、世界の投資家の方々は企業としてどのように社会や環境問題に取り組んでいるのか? というところを重要な投資指標として見ています。一般企業もですが、社会的に認知度が高く発信力もあるプロスポーツクラブも真剣に考えないといけない時代になると考えます。

今後もそこに対する研究を続け、広島のスポーツ、福山のスポーツ、日本全体のスポーツの発展につながることが研究・発信できたらと思い日々、精進しています。


藤本倫史

Norifumi Fujimoto

福山大学 経済学部 経済学科 スポーツマネジメントコース 講師

広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社勤務やNPO法人設立を経て現職。

詳しくはこちらをご覧ください。

http://rdbv.fukuyama-u.ac.jp/view/bqn3C/


著書として『広島型スポーツマネジメント学』(晃洋書房)など。