取材記事

地域に支えられて。”北広島町から世界へ”

 どんぐり北広島ソフトテニスクラブ
(“どんぐりポーズ”で笑顔のチームのみなさん!)

酷暑となった今年の8月。自然あふれる北広島町には心地よい風が吹き、中心地よりも3、4度涼しく感じる。

そんな北広島町には、どんぐり北広島ソフトテニスクラブという地域に根付いたクラブチームがあり、このチームに所属する半谷はんがい美咲みさきさんと高橋たかはし乃綾のあさんが第16回世界選手権に出場し、女子ダブルス優勝という快挙を成し遂げた。

世界トップレベルの舞台で活躍する彼女たちは、北広島町でどのように練習に打ち込み、どんな思いで暮らしているのだろうか。

――ソフトテニスを始めたきっかけは?――

半谷さん:私は元々小学校1年生からバドミントンをやっていたんですが、姉がソフトテニスをやっていたこともあって、ソフトテニスが身近にあったんです。当時「エースをねらえ」という漫画の実写ドラマがあって、周りがテニス!テニス!って盛り上がっていたのも大きかったかなと。あとはスポーツ少年団でちょうどソフトテニスのチームを立ち上げるタイミングだったこともあってソフトテニスを始めました。

高橋さん:小さい頃は、水泳やバスケなどいろいろな競技をしていたんですが、その中にソフトテニスもあって、1番ソフトテニスが楽しかったんですよ。あと、当時のソフトテニスのコーチに「東北で1番にしてやる!」って言ってもらって、その言葉を聞いて「1番になりたい!」と思ってソフトテニスを続けようと思いました。

(自身の経歴について語る半谷選手)

――他にもソフトテニスを続ける環境がある中、どんぐり北広島ソフトテニスクラブを選んだ理由は?――

半谷さん:1番は中本監督のテニスがやりたいと思ったからですね。中本監督は、他のチームとは違う「攻撃型並行陣※」というスタイルを取り入れていて、そのテニススタイルに憧れがありました。

私が高校生の時、実際に練習に参加させてもらったんですけど、ソフトテニスに取り組む環境や、ソフトテニス以外の面でもサポートしてもらえる環境が整っていることを知って、せっかくこの環境でプレーできるチャンスがあるならやりたい!と思ってこのチームでプレーしています。

このチームは、本当に地域の方々に応援してもらって成り立っているチームなんです。

たくさんの方々の支えがあって活動しているチームなので、自分だけのために頑張るのではなく、その人たちのためにも頑張りたいという気持ちや、やりがいを持つことのできるチームでプレーできている喜びを日々感じています。

※ダブルスにおいて、前衛後衛2人ともネット付近に出る攻撃型のフォーメーションのこと。

(緊張した面持ちで語る高橋選手)

高橋さん:高校生の時は、チームの方針がしっかりしているチームだったんですけど、中本監督のプレーは自分たちで自由に考えるスタイルなんです。今まで経験してきたソフトテニスのスタイルと違うということもあって、中本監督の下で頑張りたいと思ってどんぐり北広島ソフトテニスクラブに来ました。

――初めて北広島町に来た時の印象は?――

高橋さん:私の地元が同じような雰囲気だったので、そこまで田舎だとは思わなくて、親しみが湧くな~って感じでした。ただずっと住んでいると色んなところに行きたいなとは思います(笑)

半谷さん:私の地元も緑が多かったですし、人の温かさを感じられるというか、似たような雰囲気でした。東京の高校を卒業した後すぐに北広島町に来たので、懐かしいなって思いましたね。

――先ほどたくさんの方に応援してもらっているといわれていましたが、一番実感する瞬間は?――

半谷さん:大会で結果が残せて北広島町に帰ってきたときに、地元の方が涙うるうるしながら「よく頑張ったね~!」って自分のことのように喜んでくれる姿を見るときですね。人のためにそこまで喜べる状況ってそんなにないと思いますし、北広島町にはこんなに喜んでくれる方がたくさんいて、本当に支えてもらっているなと実感します。その姿を見ると「あ~、頑張ってよかったな」って思いますね。

(感謝の気持ちを語る笑顔の2人)

――今、北広島町で働きながら練習に取り組める環境が整っていますが、他県の選手からの印象は?――

半谷さん:しっかり練習に取り組める環境で良いなと言われることはあります。普段は屋外コートで練習していますが、降雨時や冬場は屋内で練習もできます。練習母体が広島市内にあった頃は、練習場所が色んな体育館だったので、転々としてましたし、限られた時間の中で練習していました。本当に今の環境はありがたいですね。

――普段働きながら練習されていますが、練習がある日のスケジュールは?――

半谷さん:2人とも同じだと思うんですけど、朝7時半か8時半から始業で16時半か17時半まで働いています。18時半頃からみんなで集まって21時まで練習してます。そのまますぐ近くのどんぐり荘でお風呂に入って、ご飯を食べて帰って寝ます(笑)

――練習が休みの日は何をして過ごしている?――

半谷さん:オフはあんまりないんですけど…

高橋さん:もし一日あったら休みたい…(笑)

半谷さん:私は出かけたいですね。市内で買い物とかしたいです(笑)

――オンオフの切り替え方法は?――

半谷さん:私の場合、コートの中と外の時点で切り替えてますね。

高橋さん:コートの中だと本当にすごいですよ(笑)テニスにかける想いとか情熱がすごいです!

――ソフトテニスの一番の楽しみは?――

高橋さん:んー、駆け引きが楽しめると頃ですかね。私はダブルスだと後衛なんですけど、相手の位置を確認してどうやったら打ち返されないようにするかとか、撃つコースを読まれた時に、逆に相手の攻撃をどうやって交わすかとか、そういう駆け引きが楽しいなって思いますね。シングルスとも全く違いますし、ダブルスならではの楽しみもあります。

半谷さん:ソフトテニスのラケットって硬式テニスのラケットより軽いんです。ボールもゴムボールを使用しているので、比較的、誰でも簡単にできる点がアピールポイントかなと。あとはゴムボールなので、ボールの回転による吸収を活かすことができるんです。私たちは一般的な上から打つサーブではなく、カットサービスっていうボールに回転をかけてバウンドを変化させるサーブから攻撃するスタイルなんですけど、ゲームの中で、様々な球種を使い分けてます。これは私たちにしかできないプレーなので、戦略を考えるのが大変ではあるけど、面白いですね

――ダブルスで戦う中で、戦略や駆け引きが非常に重要だとわかりました。実際に試合中に2人の意見がぶつかることはある?――

2人:んー?(お互い顔を見合わせ微笑む)

半谷さん:最近はお互い意見がまとまってきてます(笑)

――逆にペアを組んだばかりの頃は多かった?――

半谷さん:ペアを組み始めた頃は、2人で結果を出すことができていなかったこともあって自信がなかったですし、何をしたらいいか分からない不安もあったので、葛藤と衝突はありましたね(苦笑)

――ペアを組んでどのくらい経つ?――

2人:もう5年…?(お互い顔を見合わせ笑顔を見せる)

――地域の方に支えてもらっていると何度も言われています。毎年恒例の行事や楽しみなものは?――

2人:たくさんあるよね?

半谷さん:でも一番は、豊平地域に「べっぴん組」っていうお母さんたちがいらっしゃるんですけど、晩御飯がない時にご飯を作ってきてくれるんですよ!一人一人お弁当に包んでくれていたり、大きい鍋におでんとかカレーとか作ってきてくれるんです!

高橋さん:最近はサンドイッチを作ってもらいました!

半谷さん:ご飯を作ってもらうことが多いので、なかなか自分で料理してないんですよね(笑)嬉しい悲鳴というか…(笑)本当に温かいなーって感じます。ちなみに中本監督が「べっぴん組」って名づけました(笑)

――そんないつも支えてくれている地域の方へメッセージをお願いします――

半谷さん:いつも大会があると、年に一回、地域の皆さんがバスをチャーターしてみんなで応援に来てくれるんです。それが楽しみだったんですけど、今年は新型コロナウイルスの影響で大会がなくて…。だからこそ、今できることをしっかりやって、また大会が開催されたら観に来てもらいたいです。ここ最近、結果を残せて良い報告ができているので、ここで満足せずに、もっともっと頑張りたいです。私たち2人だけじゃなくて、若手ももっともっと結果を残せるように、チーム全体としてレベルアップしたいです。本当に温かい声援のおかげで頑張れているので、これからも温かく見守ってもらえたら嬉しいです。

高橋さん:たくさん支えてもらってありがとうございます!今は大会がないですが、私たちが恩返しできるのは結果を残すことなので、この時期をチャンスと考えてレベルアップしたいです。大会が始まった時にしっかり結果を残して、みんなに喜んでもらえたら嬉しいですし、その為にも今できることを頑張りたいと思います。

(中本監督お気に入りのイス。ここからプレーをしっかりと見ているとのこと)

――中本監督の指導方法や人望の厚さが素晴らしいと思います。練習中には見せない意外な一面は?――

半谷さん:コートの中では厳しいですけど、コートを出たら見かけには寄らずお茶目?(笑)少年のような心を持たれてます(笑)

高橋さん:コートの外だとめちゃくちゃ笑います(笑)よく自分で面白いこと言って自分で笑ってます(笑)


――監督のからの言葉で胸に残っている言葉は?――

高橋さん:昨年、世界選手権があったんですけど、それまでの大会で思うようなプレーができなくて、その時に監督から「変わらずに生き残るためには変わらなければならない」って言ってもらったんです。今のままでは何も変わらないから、それなら負けてもいいから変わるようにって言われて、今少しずつですけど、その変化が分かるようになってきました。

半谷さん:私は直接言われた言葉ではないんですけど。去年の全日本選手権が2位で、正直結構へこむというか落ち込んでしまっていたんです。負けた2、3日後には世界選手権に出発だったんですけど、ダブルスの前日にチームのみんながモチベーションビデオを送ってくれたんですよ。その中で監督の背中が映っている画像に「大丈夫」って書いてあって、監督が大丈夫って言ってるなら大丈夫だ!って思えたんです。私たちが合宿とかでいない時にチームのみんなで作ってくれていて、いつ見ても泣けます。不安だったのが一気に消えました。

(実際に動画を見せてもらいました)

半谷さん:この動画を試合前に見るのと、試合が終わって帰ってきて見るのと、時間が経ってから見るのと、それぞれ感じるものが違うんです。

――今後、このチームが北広島町でどんな存在になってほしい?――

半谷さん:「北広島と言ったらソフトテニス!」って町内でもっとたくさんの方に知ってもらえたり、なかなかテレビ中継とかないんですけど、テレビや雑誌で見かけることがあったら「あ!あの子たちだ!」って言ってもらえるような存在にしていきたいです。普通の会話の中に私たちの話題が挙がってくれると嬉しいですね。

――最後に今後の意気込みをお願いします――

半谷さん:全日本選手権でまだ優勝したことがないので、まずは全日本選手権で優勝したいです。あとは、今年のアジア選手権が来年に延期になったので、まずは代表に入って、世界でどんぐり北広島のソフトテニスをしたいですし、その姿を後輩たちに見せたいです。

高橋さん:やっぱり全日本選手権優勝。国際大会もあるので、そこで代表に選ばれるように頑張りたいですし、どんぐり北広島のソフトテニスを広めていきたいです。しっかり結果を残して、小さい子供たちに夢とか希望を与えられるようになりたいですし、ソフトテニスの楽しさをたくさんの方に伝えていきたいです。

世界で戦うには、技術はもちろん、精神的な強さも必要だろう。少し緊張しながらも顔を見合わせ笑顔で語る様子からは、5年という歳月の中で、様々な困難を共に乗り越え、培われた絆が伺える。今後の目標を語る2人の言葉には、世界で結果を残すという強い意志が込められていた。

「いつも支えてくれている北広島町のみんなの為にも」

彼女たちを最後に後押しするのは、きっとこの一言だろう。北広島町から世界へ。彼女たちの今後の活躍が楽しみだ。


半谷美咲

Misaki Hangai

福島県出身。文化学園杉並高等学校へ進学し、卒業後NTT西日本広島へ入団。現在はNTT西日本広島の移転先である「どんぐり北広島ソフトテニスクラブ」でキャプテンを務める。日本代表にも選出され、2018年アジア競技大会、2019年世界選手権のダブルスで金メダルを獲得するなど、女子ソフトテニス界を牽引する。

高橋乃綾

Noa Takahashi

岩手県出身。札幌龍谷学園高等学校へ進学し、卒業後「どんぐり北広島ソフトテニスクラブ」へ入団。同チームの半谷選手と共に日本代表へ選出され、2018年アジア競技大会では、シングルス・国別対抗ダブルスで金メダルを獲得し、日本を代表する選手として活躍する。


本取材にご協力いただきましたどんぐり北広島ソフトテニスクラブの関係者の皆様、本当にありがとうございました。

(文・インタビュー 矢上/写真 向畑)