COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
“日本で一番成長できる女子野球部”を目指して
山陽自動車道廿日市インターチェンジから、県道30号線を北に向かって約30分。そこから1本わき道に入り、なだらかな坂道を上がっていくと、目の前に広がってくるのが広島県立佐伯高等学校だ。
敷地内に入り、奥へ進んでいくと、大きなグランドが姿を現す。そこでは、女子の賑やかな掛け声が聞こえ、みなが“硬式球”を追いかけ、明るく時折笑顔をみせながらも、真剣な眼差しで練習に励んでいた。
佐伯高等学校の全校生徒は90名(2020年5月1日現在)で、そのうち女子の人数は51名。さらにその51名のうち女子硬式野球部に所属している部員は19名(うち8名の3年生は8月に引退)にも上る。
女子野球の歴史は古く、1902(明治35)年に京都市第一高等小学校が、ラケットとゴムボールを使った女子用ベースボールを始めたのがその端緒と言われている。
それから120年の時を経て、女子野球日本代表(マドンナジャパン)は、2004年から開催されている女子野球ワールドカップで6連覇中、2017年から開催されている女子野球アジアカップでは2連覇中と世界を相手に堂々たる戦いぶりを披露している。
マドンナジャパンの活躍もあり、女子硬式野球の競技人口は増加しており、2009年に約600人だった競技人口は、10年間で約5倍の約3,400人に増加している。全日本女子野球連盟によると、軟式・硬式合わせた女子野球選手は推定で、約21,000名に上るといわれている。
女子野球の競技人口が増え、NPB球団も女子硬式野球へ様々な支援を実施するなど、今後、ますます注目度の高まることが予想されている。そんな中、佐伯高等学校の女子硬式野球部は、全国で4校しかない「公立高校」の女子硬式野球部であり、学校の象徴的な存在となっている。
また廿日市市が、地域の魅力発信のために設けている地域支援員の松本さんが我々の取材当日、その取材の様子を取材するなど、佐伯高等学校は、地域にとってかけがえのない存在になっている。
同窓生の方々や地元商工会から、ボールやベンチを寄贈、グラウンド整備など様々な面で支援してもらっているそうだ。彼女たちが地域の人たちと様々な場面で関わりを持つことで、地域の人たちに笑顔が生まれてきている。
そんな地域の象徴的な存在となっている佐伯高等学校女子硬式野球部に迫るべく、主将の齊藤きらりさんへインタビューした。取材の様子をFacebookで公開中
――そもそも野球を始めたきっかけは?――
私にはお兄ちゃんがいるんですけど、お兄ちゃんがずっと野球をやっていたんです。小さい頃からそれを見て育ってきたので、自分もこうやってプレー出来たらいいなぁと思って始めました。
――岡山県出身とお聞きしましたが、佐伯高等学校へ進学を決めた理由は?――
小学校の時、ソフトボールをやっていたんですけど、ずっと野球がしたくて…。周りに野球ができる環境がなくてできなかったんです。
中学校に入るとクラブチームと部活動の両方に入っていたんですけど、部活動は男子の中に女子一人で、やっぱり力や技術面で差が出たと感じました。
そこで、高校進学を考える際、女子硬式野球部がある学校に進学したくて、調べてみると、近くの広島に女子硬式野球部があるって知って、佐伯高等学校に体験入部してみました。
その時に「ここで野球やりたい!」と思ったので、入学しました。いまは学校の近くで下宿しています。
――平日のスケジュールは?――
朝は始業まで、登校時に校門前で挨拶をする奉仕活動や、グランドの整備や草むしりをして、いつでも練習できる環境を自分たちで作っています。16時までは授業なので、それから19時頃まで練習をしています。
――チームの中で企画広報部や練習計画部など役割分担をされてるそうですね。――
私たちは、「選手が自分の頭で考え、行動する」という選手主体のチームを目指しています。
最初は先生から提案があって企画広報部とか礼儀生活部とか作っていったんですけど、そのあとは自分たちでどうしていくか、どうやったらチームが良くなるかを考えて行動するようにしていることで、それぞれの役割を果たしています。
――その活動の中で面白い取組はありますか?――
練習計画部という部があるんですけど、先生やコーチが決めた練習メニューをやるだけではなく、自分たちで今の課題克服のために必要なメニューを考え、個人ごとのメニュー表を作成し、それを実際の練習に活かすようにしています。
もちろん上手くいかないことも多いですが、選手たちが失敗を繰り返しながらも改善に取り組むことで成長を続けていく。
私たちは、日本で一番成長できる女子野球部を目指しています。
――チームをまとめる為にキャプテンとして心がけていることは?――
みんなの意見をしっかり聞きながら、練習メニューを組み立てるようにしています。キャプテンとして、それぞれの選手の声に耳を傾けることは、チームをまとめるうえで必要なことだと思ってます。
――HPやFacebookを拝見していて笑顔あふれる写真がいっぱいあり楽しそうですね。新チームになって1か月ですが、雰囲気はどうですか?――
3年生が8人いたので、これまでは、技術的な面もあり試合に出れないこともあったんですけど、今は自分たちがチームを引っ張っていく立場であり、選手それぞれが積極的に意見することを心掛けているので、それが楽しい雰囲気になっていると思います。
――こういった雰囲気はどうやって作られてますか?――
「野球やりたい!」という純粋な思いから、この環境を選んで集まってきているから、意志が強いんですよ。でもなんか…みんな集まれば自然と笑顔になるんですよね(笑)
――新ユニフォームもかっこいいですね。これも自分たちで作ったの?――
最初は自分たちで「こういうのがいい!」って話し合って2つの案にしぼりました。そこから選手、先生方、保護者、佐伯支所にアンケートを取って最終的にデザインを決めました。前のユニフォームよりかっこいいです(笑)
――生徒会長もされているそうですね。学校生活と両立するときの工夫はありますか?――
家に帰ってからお弁当を作ったりするんですけど、そういう時間をなるべく少なくして、寝る前の10分必ず勉強しようとか、合間の時間を大切にしてます。
――そのような大変な生活の中、野球を頑張るための活力は?――
三代目J Soul Brothersの音楽を聴いたり、ライブに行ったりすることです(笑)。
(インタビュアーの矢上も好きなので、このあと少し盛り上がりました。)
――これまでで一番楽しかったこととか嬉しかったことは?――
色々な県から集まっているので、方言の違いとか面白いです(笑)色んなところの文化?みたいなのがわかるので面白いんですよ(笑)広島の「たわん」ってわかんないです!笑
――今年は新型コロナウイルスの影響で大会が中止になりましたが、その時の率直な気持ちは?――
自分たちの実力が分かる大会でもあったので、一つの目標がなくなってしまって…。その時その時の自分たちの課題の把握ができなくなってしまうと思うとショックでした。
――これからも野球を続けていくうえでの目標は?――
キャプテンとしてチームをまとめていくのに、技術面も必要だと思っているので、技術面を上げていくのと同時にチームをしっかりまとめていくっていうのが目標です。
――好きな野球選手は?――
やっぱり…大谷翔平選手です。打っているところがかっこいいんですよ。
――女子野球が盛んになっていると実感する瞬間は?――
テレビに女子野球選手が出ていたり、インタビュー受けていたりするので、そういう時は注目されてるんだなーって感じます。
――残念ながら10月の代替大会も中止になりましたが、11月にある西日本大会に向けてチームの目標を教えてください――
自分たちのチームになって初めての対外試合なので、今の実力を最大限発揮できるように、これからしっかり練習に取り組んでいきたいです。
――最後に、今、野球を頑張っている女の子たちへメッセージをお願いします――
野球ができる環境って県外に出ないとなかなかないと思います。私にとって県外に出て野球を続けるという、その一歩踏み出したことが必要なことだったと思うし、とても良い経験だったと思っています。自分が「野球やりたい!」って思う気持ちをもって一歩踏み出してほしいです。
インタビューの間、つねに笑顔を見せてくれた齊藤きらりさん。佐伯高等学校は、決して施設面で恵まれているとは言えない普通の公立学校だが、彼女たちが生き生きと笑顔で野球に打ち込む姿を目の当たりにすれば、野球が大好きで、野球を続けたいと思っている全国の女子中学生に、希望と勇気を与えることができるはずだ。「野球が大好きな女子なら誰でも高校で野球ができる」そんな環境づくりに貢献するため、「日本で一番成長できる女子野球部」の挑戦は続く。
齊藤きらり
Kirari Saito
岡山県早島町立早島中学校出身。小学校では、岡山リトルエンゼルス・早島ソフトボールスポーツ少年団に所属。中学校では、岡山エンゼルス・早島中学校野球部に所属していた。卒業後、広島県立佐伯高校に進学し、現在はキャプテンとしてチームを支える。
広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部
Saeki High School
創部から6年目を迎える女子硬式野球部。「日本で一番成長できる女子野球部」を基本理念として活動している。勝利を目指すだけでなく、選手一人一人がスポーツを通じて、これから社会人として必要な力(主体性、思考力、行動力、チームワーク等)をすべての選
本取材にご協力頂きました広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部の関係者の皆様、本当にありがとうございました。