COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
たくさんの想いを胸に。”全員バレー”でV2リーグ優勝へ
ここは、とある企業の本社ビル内にある体育館。館内にはバレーボールが床を打ち付ける音と選手同士の掛け声が絶え間なく響いている。言葉で伝えるのが難しいこの緊張感を、どう表現したものか。そんな環境が、広島市内に、しかもオフィスビルの中にあるとは、外からは誰も気づかないだろう。
平日の16時頃、(株)大野石油店本社ビルへ向かうと、社員同士の明るい挨拶が聞こえる。声の方へ目を向けると、練習着を着た女性が現れ、本社の4階へと向かう。少し驚いてしまったが、ここでは当たり前の光景だ。それだけ社内でもチームを応援するという体制が整っているのだろう。
大野石油広島オイラーズは、女子バレーボールチームとして1993年に創部。V2リーグで優勝を目指すこのチームをキャプテンとして引っ張るのが山内佑里子選手。明るく気さくに話しかけてくれる彼女は、(株)大野石油店の社員として、市場や漁港の関係者を支える中央市場サービス・ステーション(SS)に勤務しており、業務時間が終わると、本社ビル4階にある体育館でバレーボールの練習に励んでいる。
東京出身の彼女は、バレーボールを続ける場所としてなぜ広島を選んだのか。トップアスリートとして、一人の社会人として広島で活躍する山内選手に迫った。
――オイラーズの特徴を教えてください――
他のチームと比べて身長が低くて、メンバーの年齢も若いんですよね。他のチームには、困ったときに必ず点を取ってくれる絶対的エースがいると思うんですけど、オイラーズはだれか一人に頼るプレーではなく、全員が拾って、全員が決めるプレーが持ち味なんです。とにかく「全員バレー」で戦ってますね。
――チームとして観てほしいポイントは?――
試合になるとコートの中の選手が注目されると思うんですけど、コートの外にいる選手もしっかり声を出してチームを鼓舞しているし、客観的にプレーを見てアドバイスしてくれます。とにかくオイラーズは全員で戦っているので、そこを見てほしいですね。
――バレーを続ける環境としてオイラーズを選んだ理由は?――
東京女子体育大学を卒業してから2年間は静岡のチームに所属していたんですけど、そのチームを辞めた時に後輩からの紹介もあってオイラーズの練習に参加することになったんです。専用の体育館があって、練習に打ち込める環境が整っていて、ここでバレーを頑張りたいと思って入団しました。
静岡のチームは練習場所が転々としていたし、仕事もフルタイムで働いていたので、繁忙期はなかなか練習に打ち込めなかったですし、その環境から考えると、オイラーズに所属している今の環境は、やっぱり恵まれていると思いますね。
――東京出身の山内選手から見た広島の印象は?――
最初は何もないなーとか、遊ぶところもないなーって思いました(笑)広島に住み始めて4年経つんですけど、今でもオフに遊びに行く場所を検索してます!
――オフの日は何して過ごしていますか?――
チームメイトと遊んだりしますね(笑)前に、宮島に行ってアナゴ飯とか揚げ紅葉を食べました!あとはお寿司好きなので、山口県の唐戸市場に行ったりもしました!
――普段のスケジュールは?――
だいたい15時くらいまで勤務して、16時半から練習しています。日曜日は完全オフですね。
――普段は大野石油の従業員として勤務されていますが、どこでどんな勤務をしているのですか?――
私は中央市場SSに勤務しているんですけど、私ができることって給油して、窓を拭くくらいなんですけど、ここで給油したい!洗車してもらいたい!って、お客様に来て良かったと思ってもらえる接客を心がけていますね。私、中央市場の紅一点なので、とにかく笑顔と元気で頑張ってます!(笑)
――勤務した後バレーの練習をされていますが、体力的にどうですか?――
最初の頃はしんどかったですね。立ち仕事した後に練習だったんで…。慣れてきたのもあるんですけど、やっぱりたくさんの方の想いがあるので、やらなきゃ!頑張らなきゃ!って気持ちになります。みんなバレーが好きでここにいるので。
――バレーと仕事を両立させる工夫は?――
とにかく切り替えですね。バレーの調子が悪くても、それを翌日の仕事に持ち込まないように、気持ちを切り替えてます。
――社会人として経験してきたことがプレーに活かせていることは?――
仕事中、お客様に「頑張れ!」って応援してもらえると、夜の練習頑張ろ!とか、試合頑張ろ!って思いますね。結果を気にしてくれているので、やっぱり良い報告したいじゃないですか。お客様も職場の方も応援してくれているので、その想いを大事にしています。
――勤務中に声をかけられることはありますか?――
私が勤務している中央市場ってファンの方来ないんですよー(笑)私が広島出身じゃないのもあって、アリーナの場所の説明もうまくできなくて(苦笑)でも「身長高いね。何やってるの?」って言われてパンフレットを渡すんですけど、試合結果を気にしてくれたりはしますね。市場が近いので、フルーツとか差し入れをもらうこともあるんですよ。やっぱり声かけてもらえると嬉しいですね。見かけたら皆さん声かけてください!(笑)
――広島県内にある他のスポーツチームの選手との交流はありますか?――
JTサンダーズ広島の原監督は、以前オイラーズの監督をされていたので、色々と気にかけてくれています。2年前くらいにワクナガレオリックの選手とバーベキューしたことはありますね!試合を見に行ったこともあります。今はInstagramで繋がったりはしてますね。
――自粛期間中はどんなトレーニングをされていましたか?――
3月末から6月の始めまでチーム練習はできなかったんですけど、仕事はフルタイムで勤務していました。勤務が終わってから各自走り込みやトレーナーさんの組んだメニューに取り組んでいました。あとは、トレーニングルームの使用はできていたので、時間をずらして密にならないようにトレーニングしていました。
――自粛期間中に新しく始めたことはありますか?――
勤務の時間が増えたのもあって、特に始めなかったんですよね…。パズルくらいかな?(笑)
――今、バレーボールを頑張っている子供たちへメッセージをお願いします――
今年は新型コロナウイルスの影響で大会が中止になってしまって、練習していても目標を見失ってしまうかもしれないけれど、ここでバレーができなくなるわけではなくて、来年も再来年もバレーはできます。目標を見失わずに常に全力で取り組めば、今の状況を変えられると思うし、今よりもっと自分たちのレベルが上がる良い経験になると思うので、自分の将来や次のステージに繋げてほしいと思います。
――今季の個人の目標、チームの目標をお願いします――
個人としては、どの試合でも自分の最大限のパフォーマンスを発揮できるようにしたいですし、キャプテンとしてどんな状況でも自分のプレーや言葉で引っ張って、チームを支えられるように頑張っていきたいと思います。
チームとしては、ずっと目標として掲げている「V2リーグ優勝」を達成するために、一人一人やるべきことにしっかり取り組むこと。それを全員が一つになってやれば、絶対に勝利につながるので、全員で拾って、守って、攻める「全員バレー」ができるように一致団結して頑張っていきたいです。
インタビュー中、終始笑顔で語ってくれた山内選手。時より人懐っこい笑顔を向けてくる彼女だが、一歩体育館へ足を踏み入れるとトップアスリートの顔つきになり、真剣な表情でバレーボールを追い続ける姿に圧倒される。
「彼女がキャプテンになって、チームにまとまりが出てきました。今のところはね(笑)」
そう語るのはバレーボール部の谷口部長。これまでチームの活動を最も近くで支えてきた。
「本当にバレーが好きなんだなと思いますね。給油所で立ち仕事した後に、これだけ練習するんだから」
彼女たちのバレーボールに対する熱意が伝わるには十分すぎる一言だ。この想いを、より多くの方に知ってもらいたい。
コートでも給油所でも応援されるチームに。今日も彼女たちは体育館で練習に励む。
10月31日にはV2リーグが開幕。
この冬、たくさんの声援を力に、V2リーグ優勝を目指す大野石油広島オイラーズに注目だ。
山内佑里子
Yuriko Yamauchi
アウトサイドヒッター 身長170cm東京都目黒区出身。東京女子体育大学を卒業後、ブレス浜松に所属。2017年から大野石油広島オイラーズに入団し、現在はキャプテンとしてチームを引っ張る。中央市場SSに勤務。
本取材にご協力いただきました大野石油広島オイラーズの関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 矢上/写真 向畑)