COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
トランポリンとエアリアル。二刀流で世界の空を跳べ
「トランポリンの楽しさ伝われー!絶対ハマるから!」そう笑顔で語るのは、山本愛佳さん。まだあどけなさの残る顔で笑う彼女は、一見すると、どこにでもいる普通の女子高生だが、実はトランポリン競技※1で国民体育大会中国ブロック大会に出場するほどの実力者である。
※1トランポリン競技とは、ラージサイズトランポリン(ベット(跳躍面)縦4.28m横2.14m)を使用して連続した異なる10本の跳躍をし、アクロバティックな空中演技でD(難度点)、E(演技点)、H(移動減点)及びT(跳躍時間点)を採点し、その合計得点を競う採点競技。
日々、トランポリン競技に励む彼女は、もう一つ大きな挑戦をしている。それは、SAJDivision3地域連携強化コンソーシアム事業※2(以下、「コンソーシアム事業」という。)によるフリースタイルスキー競技エアリアル種目※3への挑戦だ。トランポリン競技だけでなく、エアリアルでもトップレベルを目指し、日々、研鑽を積んでいる、まさに二刀流のアスリートである。
※2全日本スキー連盟(SAJ)が、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)から「アスリートパスウェイの戦略的支援」として委託を受けた事業。モーグル及びエアリアルにおける適性を見極め、有能な子供たちを育成し、ナショナルチーム(強化指定選手)入りを目指すプログラム。育成対象として認定された選手は、県内の練習拠点で週1回、そして月1回他地域の選手と合同の合宿等でナショナルチームのコーチから直接指導を受けるなどの育成プログラムに参加している。
※3エアリアルとは、キッカーと呼ばれる雪で作られた2m~4mのジャンプ台から飛び出し、宙返りやひねりを組み合わせた演技を競う採点競技。
トランポリン競技もエアリアルも、なかなか私たちが直接触れる機会が少ないが、なぜ彼女はこの2競技へ挑戦しているのだろうか。
――あまり身近にないトランポリンをやってみたきっかけは?――
お父さんのダイエットに付き合わされて来ました(笑)ここにはトレーニング器具もあるので、お父さんが筋トレしている間に、私はマットでレスリングやったり、サンドバックでボクシングやったりしてたんですけど、こんな大きいトランポリンがあったら気になるじゃないですか?(笑)その時は小学生だったんですけど、やってみたら楽しくて通うようになりました。
――では、競技としてのトランポリンを始めたきっかけは?――
きっかけは、当時の指導者の方に大会に出てみたら?と言われたことですかね。当時は大会に出るのが怖かったのですが、その言葉に勇気をもらい、競技としてのトランポリンに取り組むようになりました。
――国体では成人とも同じ舞台での大会になりますが、差を感じることはありますか?――
2019年からトランポリンが国体の正式種目になり中学3年生から出場できるので、去年中国ブロック大会に広島県代表として出場したんですけど、私が出場者の中で年齢が一番下だったんです。自分が今まで完璧だと思っていたものが一瞬で崩れましたね…。でもそのことで理想が高くなって、ヒントも得られたし、負けたけど良い経験ができたと思います。これからの競技に活かしていきたいです。
――コンソーシアム事業でエアリアルに取り組むことになったきっかけは?――
コンソーシアム事業の選考会があって、そこに参加したんですけど、エアリアルについて全然知らなかったんです。自分で色々調べたんですけど、トランポリンもエアリアルも空中競技だから共通するものがあって楽しそうだなって思ったんです。
――それぞれの競技をやってみて活かせたことは?――
トランポリンは空中感覚を掴める競技だから、エアリアルにも活かせてますね。去年の12月に初めて本格的にスキーをやったくらいの初心者なんですけど、トランポリンの跳び方を踏まえて滑るようにしてます。トランポリンやってて良かったって思いました(笑)
でも、同じ空中競技とはいえ、やっぱり跳び方が違うところもあるんです。トランポリンの時、背中から回る癖があって、これが良くないんですけど、エアリアルは背中から跳ぶと危ないから、背中から跳ばないように意識するようになって少しずつ直ってきたんです。これはトランポリンに活かせるなって思ってます。
――考え方がポジティブですね。――
元々はすごくネガティブで…。今、エアリアルの合宿で同い年の女の子がいるんですけど、その子によく相談してるんです。その子に「愛佳はネガティブすぎるよ。ネガティブに考えても何も始まらないよ。」って言ってもらって、そうだな!って思ったんです。そこからポジティブに考えられるようになりました。
――エアリアルを始めたことで新しい、貴重な出会いもあったんですね。――
ここ(ヒロトラクラブ※)だと私が年上で小さい子ばかりだから、相談するより相談されることが多いんです。相談したいなって思っても、学校の友達はスポーツをしてない子もいるし、特殊な競技なので、なかなか相談できなくて…。コンソーシアム事業にいる仲間と分かり合えるのは嬉しかったし、やっぱり同年代ってところが救いでしたね。
※ヒロトラクラブとは、福山市引野町を拠点に活動する、トランポリン運動・トランポリン競技のクラブで、2001年「スポレク広島2002」に合わせて設立された。現在、幼児から70歳代まで幅広い年齢が、トランポリンを中心にスポーツを楽しんでいる。
――エアリアルの合宿はどうですか?――
合宿中にランキングが出るんですけど、競技歴が浅いこともあって、年下の選手に負けるんです。やっぱり悔しいですし、なかなかポジティブになれない時もありますね…。
でも、コーチの方は日本代表として世界で戦った選手ばかりですし、私のことを子供ではなく、一人の選手として接してくれるので普段の環境とは違うなって感じます。
――普段のスケジュールは?――
ヒロトラクラブは火曜日と木曜日に練習施設を開放していて、土日も練習させてもらっています。コンソーシアム事業が週に1回地域トレーニングと、月1回のナショナルコーチからの直接指導があるので、トランポリンかエアリアル、どっちかをやっている感じです。
――オフの日にやりたいことは?――
たっくさんスイーツが食べたいです!!(笑)どちらの競技も身体が土台なので、普段から食事は気を付けているんです。ここ1か月アイスを食べないようにしてて、この前、久しぶりに食べたんですけど、止まんなくなりそうで…(笑)甘いもの好きなんですけど、普段は制限してるので、いっぱい食べたいです!
――結構食事がモチベーションになっている?――
そうですね!甘いもの好きなんで!(笑)短期間で目標を決めて、それを達成したらご褒美!みたいな感じです(笑)モンブランが大好きなので、そういう時はお気に入りのケーキ屋さんによく行きます(笑)
――他のスポーツも見ますか?――
カープ好きです!あとは担任の先生がサンフレッチェ広島のファンなので、その影響でYoutubeで動画を見て、かっこいいなって思いましたね。通っていた小学校にサンフレッチェ広島の選手が来たことがあり、その際にもらったサイン色紙が飾ってあったので、身近に色んなスポーツがありました。やっぱりスポーツ好きなので、手当たり次第やってみますし、見ます!(笑)
――トランポリンをやっていて一番楽しい瞬間は?――
後輩たちが成長してるのを実感する時ですかね。技の精度が上がったり、私が教えたことや説明したことを理解してできるようになったときが嬉しいですね!いつも近くで見ていて自分も学ぶことがあるし、追いつかれないように頑張ろ!って思います。挨拶がしっかりできるようになったり、コミュニケーションとれるようになった時も嬉しいです。
――そんな一緒に練習している子供たちへメッセージ――
とにかく頑張れ!(笑)周りには頼れる大人がたくさんいるから、支えてもらいながら競技を頑張ってほしいし、中学生・高校生になった時に、同じように小さい子たちが頼れるお兄さんお姉さんになってほしいですね。
――身近にこの環境があることについて――
本当に恵まれているなって感じます。トランポリンをできる場所って普通ないじゃないですか。しかも小川さんのご厚意でここまで開放してもらえるのってすごいと思うんです。小川さんには勉強も教えてもらったり、ご飯ごちそうしてもらったり、家族みたいに接してもらってます。
――10年後の目標――
トランポリンもエアリアルもどっちも頑張って、世界の大きな大会に出場できるようになりたいです。
競技の普及といっても、ただ結果を残す選手を育成するだけでなく、その競技に触れ、体験する人々を増やすことが重要で、まさにその役割を果たしているのが、株式会社小川長春館の倉庫内にある環境だ。
トランポリン以外にも、バスケットボールやバドミントン、ウエイトトレーニングができる器具があり、適切な指導のもと、子供たちがトランポリンなどの様々な競技を楽しんでいる。
その傍らでは、保護者の方々がしっかりとサポートをしている。このような「地域のスポーツ拠点」が、地域の活性化に重要な役割を果たしているといえるだろう。
「子供たちが学校終わりに練習できる環境を提供したい」
そう語るのは、広島県トランポリン協会の理事長を務める株式会社小川長春館の小川社長と愛佳さんの父で同協会の山本副理事長。体育施設の総合メーカーである小川長春館の倉庫が、彼女の練習拠点となっている。
幅広い世代の方が様々なスポーツをするこの場所は、子供たちの競技力を向上するだけでなく、人としての人間性も育んでいく、まさに地域の拠点。そのことが、周囲の支えてくれている方への感謝や今の環境への感謝の気持ちを言葉にする彼女から伺うことができる。
彼女は「放課後に練習できる環境」が身近にあったことで、トランポリン競技に熱中するきっかけとなり、トランポリン競技に取り組んでいたからこそ、コンソーシアム事業でエアリアルにも取り組むことになった。
この事業での新たな環境や出会いによって、彼女はこれからもさらに成長していくのだろう。世界を舞台に宙を舞う日が近いと、期待が膨らむばかりだ。
本取材にご協力いただきました
ヒロトラクラブの関係者の皆様、本当にありがとうございました。
山本愛佳
Aika Yamamoto
2004年生まれ。福山市立幸千中学校出身。競技トランポリンクラブKamalei lino☆T.C.所属。小学校からトランポリンを始め、中学2年生で競技トランポリンに取り組む。2019年、中学3年生で広島県代表選手として国体中国ブロック大会に出場。同年12月にSAJ Division3 地域連携強化コンソーシアム育成選手選考会に合格しエアリアルを始め、海外タレントキャンプに推薦される。卒業後、広島県立戸手高等学校に進学。取材時(2020/9/24)はヒロトラクラブに所属。
(文・インタビュー 矢上/写真 向畑)