取材記事

手作りマシンに情熱を注ぐ、孤高の高校生ゼロハンカーレーサー

 広島県立府中東高等学校

ものづくりの街として有名な広島県府中市。この地が発祥とされるゼロハンカ―に、全国から熱視線が注がれている。

ゼロハンカ―とは、鉄パイプで組んだフレームに、50ccのエンジンを搭載したカーレース用の車。所謂、完全オーダーメイドの愛車だ。車好きはもちろん、車に詳しい人たちを虜にする、ありとあらゆる魅力が備わった競技とも言えるだろう。

このゼロハンカ―に、なんと1人で挑み続ける高校生がいると聞き、県東部の広島県立府中東高校へ。

2月27日(土) 、 2月28日(日)の2日間かけて開催される大会「第12回全日本EV&ゼロハンカーレースin府中」開催前に、同校都市システム科で勉学に励む高校一年生、有地賢祐(ありちけんすけ)君に話を聞いた。

父の背中を追いかけて、ゼロハンカ―競技の道へ

__ゼロハンカ―を始めたきっかけを教えてください。__

約10年前、僕の父が、府中で開催されたゼロハンカ―大会にメカニックとして参加していた時期があったんです。父は車の部品を作る会社に勤めていて、当時は社会人チームの一員としてエントリーしていたそうなんです。

その当時、僕はまだ幼かったのですが、父について行き観戦しました。その時に見た大会の光景が忘れられず、「自分も車を作ってみたい。乗ってみたい」という気持ちが年々増加しました。高校生になってその思いを伝えたところ、「いいぞ、やってみろ」と父から言葉をかけてもらい、今に至ります。

__かっこいいお父さんですね。高校ではゼロハンカ―の部活などに所属を?__

実は、府中東高校にはゼロハンカ―をするチームは現状ありません。入学して少し経った頃、「ゼロハンカ―の大会が府中市で開催されるので出場したい」と自分から先生にお願いしました。個人では出場できない大会なので。

__というと、府中東高校の中でゼロハンカ―をしているのは1人だけ?__

はい、そうです。大抵の場合、ゼロハンカ―のチームは、メカニックやドライバーなど役割分担された多くの人で成り立っています。でも僕の場合は、自分で車体を作り、自分でメンテナンスをして、大会ではドライバーもします。

__素晴らしいですね。車体はどこで作っていますか?__

家の倉庫で作っています。ここ数カ月で2台完成させました。1代目はコスモゼロ、2代目はイスカンダル号と命名しました。戦艦大和が好きなんですよ。これも父からの影響ですね。呉市の大和ミュージアムにも行きましたよ。

マシン制作も、ドライビングテクニックも全て独学

__乗り物全般が好きなんですね。では、自作の車を作るにあたり、誰か教えてくれる人が?__

いえ、ほぼ独学です。父からアドバイスはもらいますが、作るのは1人。絵を描いてスケッチをとり、イメージ図を膨らませて最終形にしていきます。設計を習ったことはありません。大抵、1台を作る製作期間は2~3年らしいのですが、大会に出るため急いでいたので、土日も全て費やし3カ月で完成させました。失敗もたくさんしましたね。

__具体的に、どんな失敗や苦労が?__

まだ慣れていないので、溶接で軽い火傷をしてしまったり…。僕が通っている都市システム科は、土木技術の勉強が中心で、町の中にある橋や道路を設計、建設するための学習をしています。機械技術がメインではありませんが、その他実習では、溶接や旋盤の加工を習っているので、学校での学びも役に立っていますね。

__車体を作るときに工夫していることはありますか?__

僕は身長178㎝と体が大きいので、誰でも乗りやすく大きめで、かつスピードが出る車を作りました。ドライバーは背が低く、体重が軽い、つまり華奢な人が向いています。でも僕は自分1人で始めたので、自分で乗るしかなくて(笑)。

__なるほど。では車両全体の重さを軽減させるためにより工夫を?__

最初に作った1台目は、角パイプだけを使いました。でも角パイプは重たく、組み立てる場合たくさんの量を使うことになります。丸パイプの方が、強度もしっかりして軽いため、2代目は丸パイプをほとんどの箇所に使用しました。横のガードは細いパイプ、荷重がかかる部分は太いパイプを使うなど、場所によってパイプの大きさも変えていきました。

(年末に開催された全日本高等学校選手権の様子)

__具体的に、どんな失敗や苦労が?__

まだ慣れていないので、溶接で軽い火傷をしてしまったり…。僕が通っている都市システム科は、土木技術の勉強が中心で、町の中にある橋や道路を設計、建設するための学習をしています。機械技術がメインではありませんが、その他実習では、溶接や旋盤の加工を習っているので、学校での学びも役に立っていますね。

__車体を作るときに工夫していることはありますか?__

僕は身長178㎝と体が大きいので、誰でも乗りやすく大きめで、かつスピードが出る車を作りました。ドライバーは背が低く、体重が軽い、つまり華奢な人が向いています。でも僕は自分1人で始めたので、自分で乗るしかなくて(笑)。

__なるほど。では車両全体の重さを軽減させるためにより工夫を?__

最初に作った1台目は、角パイプだけを使いました。でも角パイプは重たく、組み立てる場合たくさんの量を使うことになります。丸パイプの方が、強度もしっかりして軽いため、2代目は丸パイプをほとんどの箇所に使用しました。横のガードは細いパイプ、荷重がかかる部分は太いパイプを使うなど、場所によってパイプの大きさも変えていきました。

悔しさをバネに、寒い冬を吹き飛ばす熱いレースに臨む

__これまでに大会出場の経験は?__

昨年12月の終わりに岡山県で開催された「第18回全日本高等学校ゼロハンカー大会」が初出場でした。工業系高校が多く集まるレースなんですが、僕の場合は、家族総出で出場しました。父、母、弟、祖父、そして学校の先生、数人の友人。正直、他校のきれいな車を見て「僕の車は大丈夫かな…」と不安になりました(笑)。

結果、一次予選は52校中42位。その後2次予選で敗退しました。敗者復活戦でもエンジンの調子が悪く負けてしまって悔しかったですね…。まだ限界を知れていない。「出せるのに出し切れてない」と父からもよく言われます。ドライビングテクニックでいうと、すぐシフトチェンジしてしまう癖があるんです。色々と後悔が残る試合でした。

__2月末、府中市で開催される大会に出場されますね。今の気分は?__

不安はあります。過去動画を見て「どのマシンも早いなぁ…」と焦りも。前回出場した岡山での大会が終わって、急いで2台目を作ったので、その心配もありますね。

でも今回、ドライバーになってくれる友達が見つかったんです。つまり2台をレース場に持っていき、1台目に友達が乗って、2台目に僕が乗るんです。友達は同じ高校の同級生で、ゼロハンカ―についてずっと話していたら、「興味がある」と言ってもらえたんですよ。嬉しかったですね。他にも、スタートでマシンを押す役として、他友人2人に声をかけています。

__大会を前に意気込みを聞かせてください。__

府中での大会は初めてですが、目標は決勝に行くこと。僕が小さい頃、父が出ていた憧れの大会です。まずは完走、そしていい成績を残して次に生かしたいですね。

__将来の夢はありますか?__

車の整備士になりたいと思っています。福山の専門学校に行って車の勉強ができたら。そして免許を取ったらスポーツカーを買って、街中を駆け抜けたいですね。何か不具合があれば自分で修理できるのも、僕にとっては楽しみの1つです。ゼロハンカ―はもちろん、やはり僕は、車が大好きなんです。

一般的なゼロハンカ―レースは、車体を作るメカニックと、ドライバーという役割にそれぞれが分かれ、数人で結成されるチームによって成されるものだ。

作る、乗る、直す、この全工程に1人で立ち向かう有地君。「とにかく車が大好き」という気持ちが全身から溢れる様から、彼が持つ無限の可能性を感じた。純粋に好きな事や価値観をものづくりに反映し、その楽しさを心から味わう素晴らしさ。大会での勝利はもちろん、未来を担う若い技能者に大きなエールを送りたい。

本取材にご協力いただきました府中東高校の皆様、本当にありがとうございました。

(文・インタビュー 大須賀、松浦 /写真 大須賀  提供/府中東高校)