COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
スポーツの応援から主役へ“コロナ禍乗り越え、悲願の初V”
アメリカンフットボールや野球、バスケットボールなど、様々なスポーツの場で会場を盛り上げているチアリーダー。日本では、甲子園のスタンドで応援している姿を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。
チアリーディングは元来、エール交換や応援歌の指揮などを中心に活動していたが、観客を楽しませるためにアクロバティックな技が徐々に取り入れられるようになり、チアリーディング発祥の地、アメリカでは、1980年頃にチアリーダーが主体となる競技会が開催されるようになった。
日本でも1988年に第1回全日本チアリーディング選手権大会が開催され、得点やタイムを競い合う競技とは違い、「いかに観客を魅了し、引き付けることができるか」を競う表現のスポーツとして認識されるようになった。
そんなチアリーディングで、広島に嬉しいビッグニュースが飛び込む。それは「如水館高等学校全日本高校チア初V」という快挙であった。新型コロナウイルス感染症対策で、演技人数の制限や演技時間の短縮などの措置がとられる中、本年1月に東京で開催され、全国から48チームが出場した第31回全日本高等学校チアリーディング選手権大会で、見事優勝を果たした。
見ている方に感動を与えられる演技がしたい
Division1のキャプテンを務める岩戸璃莉華(いわとりりか)さん
―優勝した瞬間どうでしたか―
初めての優勝で嬉しかったです。自分たちが日頃の練習からこだわってきた部分を出し切ることができたので、演技が終わって自信がありました。
―今年度は大幅なルール変更がありました―
そうですね。初めてのことだったので、演技の構成などを、どう仕上げていくか不安がありました。自分たちで演技の内容を考えていくんですけど、先生やコーチにアドバイスをもらいながら良い演技を作ることができました。
―自分たちで演技の内容を考えているんですね―
大学生の演技でかっこいいものがあったら参考にしながら、チームの中で相談して決めています。
―そんな中、優勝できた要因は?―
練習の時から、常に見ている方に伝わる演技をしようと意識していたので、それだけ真剣に練習に取り組んできた成果がしっかり出せたんだと思います。
―1分30秒という短い時間での演技で一番意識していることは?―
全日本高等学校選手権大会の目標が「感動を巻き起こしメダルを獲る」だったので、観ている方に感動を与えられる演技ができるように心がけていました。
―自分たちで話し合っている時間が多いですね―
一回一回、演技の修正点を確認したり、意見を出し合っているんです。元々、私は相手に意見を伝えるのが苦手だったんですけど、だんだんチームの中でコミュニケーションをとれるようになって、自分を出せるようになりました。下級生も同じチームにいるんですけど、なかなか自分から話しかけづらいこともあると思うので、上級生から話しかけるようにしています。
チアリーダーは、まず自分たちが楽しむこと
―チアリーディングを始めたきっかけは?―
姉が中学生の時にチアを始めたのがきっかけで、私も小学5年生から始めたんです。姉がチアをやっている姿を見て、私もやってみたい!って思ったんです。
―初めてバク転をしたとき怖かった?―
全然怖くなかったです!先生が支えてくれて練習していたので、小学生の時から割と平気でした。
―如水館高等学校に進学した決め手は?―
如水館のオープンスクールなどで見たチアリーディング部の演技が、すごくかっこよかったんです。その演技を見て、自分自身が元気になったので、私も同じようにみている人が元気になったり、感動を与えられる演技がしたいと思って如水館に進学しました。
―他の運動部も強豪が多く応援する機会がありますよね―
今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で多くの大会が無観客や中止になったので、応援に行く機会は少なかったんですけど、例年、夏場は大変ですね。野球部の応援の練習と、自分たちの演技の練習もありますし、移動が多かったりもするので。
―チアリーディングの一番の魅力は?―
見てくれている方に笑顔を与えられるところですね。そのためにも私たち自身がまず楽しんでいますし、しんどいことがあっても、元気に全力で演技したいと思っています。
―チーム内でのトライアウトの時はどんな気持ち?―
やっぱり緊張しますね。上手くいったときは嬉しいし、ミスしてしまったら落ち込んじゃいます。やっぱりプレッシャーは感じちゃいますね。でもまずは楽しむことを心がけています!
―JAPAN CUP2020日本選手権大会での4位入賞できました―
びっくりしましたね。正直、初めてのスタイルで不安な部分も多かったので、嬉しかったです。この入賞が自信になったのも、今回の優勝につながったんだと思います。
―最後に今後の大会に向けて意気込みをお願いします―
次の大会が西日本大会なんですけど、「余裕のある力強い演技をして210点以上取る」という目標があるんです。その目標を達成できるように日々一生懸命練習して、当日、自分たちの実力を全部発揮できるように頑張りたいです!
より良い演技にするために、常に全力で
チアリーディング部顧問岡本里絵子先生
―今年度は新型コロナウイルス感染症の影響で大幅にルール変更がありましたね―
そうですね。通常なら16人で演技の時間が2分30秒あるんです。その中でタンブリングやピラミッドといった演技をするんですけど、人数が半分の8人になり、ピラミッドなど接触する演技ができなくなって、時間も1分30秒に短縮されました。
短縮されたとはいえ、1分30秒間、常に動き続けているので、最初の頃はみんな体力的にしんどそうでしたね。大丈夫かな…って心配になりました(苦笑)普段の演技であれば、ピラミッドなどで待機する子は休憩できたりするので。
―振り付けはコーチと先生が考えられている?―
まずは生徒たちにアイデアを出す機会を与えているんですけど、その後、生徒たちが作ってきたものを少しずつ変化させていきながら作り上げていきます。毎日、振り付けが曲にあっているかどうか、より見栄えが良くなるにはどうすれば良いかを考えています。
なので、毎日毎日振り付けって変わるんです。位置取りによっても演技の見え方が違うので、それを日々続けてきたからこそ、今回優勝できたのかなと思いますね。
―優勝候補のチームがいる中、Division1、2共に優勝しました―
私たちは、とりあえず「自分たちの演技を精一杯やろう」と。まず自分に勝たない限りは、上に上がっていくことはできないので。前回大会の準優勝チームがいて、生徒たちみんな圧倒されていたので、私たちは2位かな、とモチベーションが低くなってしまった時期もあったんですけど、コロナ禍で大会に出場できない学校がある中、こうやって練習できて出場できる環境が整っている私たちがそんなモチベーションで出場してはいけないなと。
出場するからには全力を出さないといけないし、「さすが如水館だな」と言われるような演技をしないと、出られなかった子たちはもっと悔しい思いをするし、この子たちが優勝なら仕方ないか、ではないんですけど、次の大会に向けて切り替えるきっかけになればいいなと思っていました。とにかく全力で演技しましたね。
―チームの一番の目標であるJAPAN CUP2020では堂々の4位入賞でした―
JAPAN CUPは、日本で一番大きな大会なんです。中学生から大学生など一堂に会する大会で、毎年盛り上がるんです。その中で4位入賞は、彼女たちにとって自信になったでしょうね。
予選は3位だったので、メダル獲得が見えていたんですけど、決勝は3位のチームの方がより素晴らしい演技をしていて、悔し涙を流す子もいたんですが、最後は3位のチームとお互い励まし合っていましたね。
特に今年は初めてのスタイルで手探り状態でしたし、他のチームの演技を取り入れてみたり、自分たちらしいオリジナルの演技を考えたり、とにかく試行錯誤の日々でしたけど、それが成果として現れましたね。
0から育てて、達成感をもって卒業してほしい
―部員は経験者が多い?―
Division1のメンバーに関しては全員経験者ですが、高校から始めた生徒もいます。経験者のみを集めるのではなく、初心者でも受け入れてしっかり育てていくのが如水館のスタイルです。広島カープと同じ精神ですね(笑)高校から始めた子でも宙返りまではできるようになっています。やっぱり、最初は怖さがあるので、そことの戦いですね。
―県内でチアリーディング部のある学校は少ないですよね―
広島県内で日本チアリーディング協会に所属しているのは、国泰寺高校と瀬戸内高校とうちの3校しかないんです。他の2校は広島市内にあって立地も良いですし、瀬戸内高校は施設も新しくて人数も多いんです。
そんな中でも、如水館でチアリーディングを頑張りたい!もっと上を目指したい!と思って、広島市内から通ってきてくれている生徒もいます。市内からの通学だけでも大変なのに、チアの練習も真剣に取り組んでいて、よく頑張っているなと思いますね。辛い顔も見せず頑張ってます。
―練習中、生徒たちが常にコミュニケーションを取っていますね―
次の演技で直すところの確認などをしているんです。チアリーディングは、一人でも妥協してしまうと演技が崩れてしまうので、チーム内で鼓舞し合っているんです。
なかなかこの世代の子たちは、お互いの意見を伝えづらかったりするんですけど、それで黙っていたら絶対結果には結びつかないので、お互いに意見を伝えあうようにしています。
最初の頃より、コミュニケーションがとれるようになって来たので、このまま継続してほしいですね。自分たちで映像をみながら、演技の修正箇所を自分たちで気づくように話し合うようにしています。気づく力を身に着けていくと、練習の時にもその力が生きてくるんです。
「みんなが達成感をもって卒業してほしい。」
最後にこう語った岡本先生。先生もまた、チアリーディングに打ち込み、現在は指導者として、入部してくる生徒たちを育てている。
演技に対する意識の高さ、そして新ルールへ柔軟に対応し、より良い演技にしようと探求し続ける精神。これこそ、彼女たちが優勝できた大きな要因だろう。
元々、野球部の甲子園出場が決まり、「チアリーダーが必要だ」ということで、応援スタイルのチアリーディング部を創部したことから始まり、競技のチアリーディングにも取り組み始めた。
夏場の野球部応援の時期は、応援の練習と競技の練習の両立で大変だが、その忙しささえも彼女たちにとってはモチベーションの一つ。応援のチアも大好きで、他の運動部も勝ち進んでほしいという気持ちが強く、他の運動部が頑張っている近くで練習する環境が良い影響になっているそうだ。
スポーツの応援から始まったチアリーディング。会場の応援の華としての特色を生かしながらも、組体操技術やスタンツ、ピラミッドなどのチアリーディング特有の技術を取り入れ、元気や楽しさ、美しさを競う「競技」となった。
全力で観客を魅了する彼女たちは、スポーツの華であり、そしてスポーツの主役として輝き続ける。
如水館高等学校チアリーディング部
Josuikan Cheerleading Club
広島県三原市にある1940年創立された私立の中高一貫校。勉学・部活動ともに注力しており、多数の部活動が全国大会へ出場している。チアリーディング部は、野球部が甲子園出場をきっかけに創部。これまで全国大会で数多くの入賞を果たし、第31回全日本高等学校チアリーディング選手権大会で初優勝を果たす。
本取材にご協力いただきました
如水館中学高等学校の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 矢上/写真 向畑)