COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
野球ができる感謝を胸に。モットーである全力疾走を甲子園で体現
第93回選抜高等学校野球大会が、3月19日より阪神甲子園球場で開催される。中国地方からは広島新庄高校、下関国際高校、鳥取城北高校の3校が出場。中でも注目されているのが、秋季広島県高校野球大会、秋季中国地区高等学校野球大会で優勝を果たしている広島新庄高校だ。
名将・迫田守昭氏の退任を受けて2020年4月に監督に就任した宇多村聡氏は、迫田前監督が掲げる守備を中心とした“スモール・ベースボール”を継承。コロナ禍によるセンバツ中止、夏は交流試合のみという異例の状況下にありながら、的確な指導を施すことで部員たちの能力を引き出していった。
前述の秋季広島大会では初戦で崇徳高校(5対1)を破ると、その後も市立呉高校(9対2)、広陵高校(9対2)、西条農業高校(8対1)、盈進高校(1対0)を退け優勝。市立呉、広陵は共にコールド勝ちという圧巻の内容だった。
中国大会では持ち味である粘り強さを発揮し、準決勝で鳥取城北に逆転勝ち(4対3)。決勝の下関国際戦も攻守譲らぬシーソーゲームとなったが、準決勝と同じく1点差ゲームを制し(3対2)、見事優勝を果たしている。
秋のチーム成績は打率.345、防御率1.37と、投打ともに状態の良さをキープしている。なかでも投手陣の評価は高く、エースで4番の花田侑樹君、抑えの左腕・秋山恭平君の必勝リレーは盤石だ。1回戦で対戦する上田西高校(長野)は出場32校中でトップのチーム打率(.408)を誇るチームだが、2枚看板を中心とした守り勝つ野球で初戦突破を果たしたい。
大会4日目(3月22日)の上田西高戦が迫るなか、チームをまとめる大可尭明(おおか・たかあき)キャプテンに話を聞いた。
コロナ禍の中で今、自分たちが大好きな野球をできていることに感謝
―コロナ禍で大変なときにキャプテンを務めることになりました。―
交流試合のときに3年生の方と一緒に試合に出させていただきました。勝った(○天理、4対2)にも関わらず1試合で試合が終わってしまって、悔しい思いをした先輩方のためにも「自分たちが秋に勝ってセンバツにもう1回いく」という気持ちで迷いなくキャプテンを引き受けました。
―思うような練習もできないなか、選手をまとめるのはそう簡単ではなかったと思います。―
大変な時期もありましたが、コロナ禍の中で今、自分たちが大好きな野球をできていることに感謝しなくてはいけないと思います。休校とかもあり、なかなか思うように野球ができなかったこともありますが、自分の中でも野球ができるのがどれだけうれしいことなのかいうことが改めて分かりました。みんなもそうだと思いますし、今はチーム全員で甲子園に向かって頑張れている状況です。
―ちょうど1年前にセンバツの中止が決定しました。悔しいという言葉では足りないくらいの感情もあったと思いますが、改めて当時を振り返ってみてもらえますか?―
自分も初めての甲子園でしたし、やはり高校野球での目標は甲子園に出るということなので決まったときは正直、受け入れがたいものはありました。甲子園に行くために新庄高を選んだので「出場が決まっていたのに、なんで自分たちの代で?」という気持ちでした。
―気持ちの整理がつかない時もあったのではないですか?―
はい。休校中とか野球ができない状況のときは、中学や高校で野球ができていたことが、すごく懐かしく感じました。ただコロナがあったからこそ休校明けからは野球ができるということ、グラウンドに行くことがすごく楽しいと思いましたし、改めて野球をやらせてもらっていることへの感謝を感じました。本当に楽しいですし、仲間や監督に感謝です。
―休校の時は各自どのような調整を行なっていたのでしょうか?―
やはりグラウンドでの練習は限られてきますし、家での筋力トレーニングや素振りが中心でした。自分は家が近い選手とキャッチボールをすることができましたが、みんな守備の連係とかそういう練習はできなかったと思います。
―そんな中でも対外試合では連勝が続きましたね。―
ピッチャー陣が3人とも安定していますし、広島県内だけではなく中国大会でも通用した実感があります。そうやってしっかり投げてくれているからには、自分たち守備陣がしっかり守って助けてあげなければいけないですし、打撃の面でも少しでも得点をとって助けてあげたいと思います。
―練習ですが、今もコロナの影響を受けているのでしょうか?―
いえ、今はとくにないです。今は7時半に学校に来て勉強しています。そのあとご飯を食べて、8時20分から16時までは授業です。練習は16時半から始まって、終わるのは20時です。休みは月曜日の授業のあとだけですね。土曜日は学校がある日は午前中に勉強をして、13時から16時半まで練習。日曜日の午前中は休みで、13時から16時半まで練習をしています。体は疲れますけど、いまは野球ができる喜びの方が大きいです。
―普段、監督からはどのような指示を受けていますか?―
簡単なゴロは慌てずしっかり前に落とせばアウトになる確率が高くなるので、「慌てずゆっくりやろう」と言われています。「難しいファインプレーとかそういうことはしなくていいから、一つひとつ全員でアウトを積み重ねていこう」ということは、いつも監督がおっしゃっていることです。
高校生らしくハツラツと笑顔で楽しみたい
―センバツの初戦の相手が上田西高に決まりました。どのような印象を持っていますか?―
打率も非常に高くて星稜高校とも粘り強く戦い勝っていたので、自分たちと同じような粘り強いチームなのかなと思います。バッティングでも2ストライクからの粘りもあると思いますし、守備が嫌な攻撃をしてくると思いますので、そういう面でかき回されず、しっかりと新庄らしいプレーをしたいですね。
―相手云々ではなく、新庄高の野球を貫くと。―
勝ち負けを重視することも大切なんですけど、やはり甲子園でこのメンバーで野球ができることがすごくうれしいです。コロナ禍という状況もありますし、地域の方々や学校関係者の方々も楽しんでいただけるように、勇気づけられるように、自分たちが楽しそうにプレーしている姿を見てもらえればと思います。
―今年の広島新庄高の特徴を教えてください。―
バッティング、守備、投手と、すごくバランスが取れているチームです。足を絡めた攻撃や短打でつないでいく打線もそうですし、安定した投手陣と粘り強い守備で3点以内に抑えるところも特徴です。甲子園では新庄高らしい野球を見てもらえればと思います。
―1回戦を勝ち抜けば、2回戦では大阪桐蔭高と智弁学園高との勝者と対戦することになります。―
組み合わせは分かっているんですけど、まずは1試合目を勝つことが重要です。その上で次のことを考えたいですね。自分たちの今の立場、強さの位置を確かめることができる場所なので、できる限り全国の強豪校と対戦したいという気持ちはあります。
―ようやく選手たちが望む形で、甲子園で戦うことができますね。―
はい。チームのモットーとして“全力疾走”という言葉を掲げているので、それを徹底して高校生らしくハツラツと笑顔で楽しみたいと思います。応援してくださっている広島県民の方々や地域の方々に自分たちができることは、甲子園で勝ち上がって少しでも勇気づけることなので、高校生らしく楽しんでプレーしていることを見てほしいです。
11年間のコーチ経験を経て昨年、新監督に就任
広島新庄高等学校硬式野球部宇多村聡監督
名将の後を継いで、広島屈指の強豪校を率いるのが宇多村聡監督だ。迫田前監督が広島商業高校の野球部監督を務めていた時代の教え子であり、高校3年生の夏には岩本貴裕(元広島東洋カープ、現カープスコアラー)とのバッテリーで甲子園に出場。迫田イズムを継承する若き監督が、広島新庄高校を一段上のステージへと引き上げる。
―改めて監督に就任されたときのお気持ちを聞かせてもらえますか?―
いつか自分がやるタイミングがあるだろうと思っていましたので、ついにきたかという気持ちでした。迫田さんの下で一番長くやってきたのは自分でしたので、そういう意味ではいつそういう立場になってもいいように準備はしてきたつもりです。
―2020年3月31日付で迫田監督が退任。コロナ禍の中での監督就任だけに、野球以外の部分でも苦労が多かったと思います―
そうですね。誰も経験したことがないことですから、誰に聞いても分からないというのが正直なところでした。一つずついろいろ考えながら、話し合いながらやっていくしかありませんでした。
―やはり迫田さんが追及された野球を踏襲したチームづくりになるのでしょうか?―
私も投手を中心に守って失点を抑えていくのが、勝ちにつながる一番の方法だと思っています。広島商業高時代からの恩師でもありますし、そこはやはり自分に代わっても引き続きやっていきたいところです。
―新チームは春の対外試合解禁前までで、練習試合を含めて負けなしの39連勝。この快進撃の要因は、どこにあるとお考えですか?―
やはり、投手中心に失点を抑えられているところだと思います。打撃に関しては日によって変わってくるところもありますので、最少失点で抑えているというところが大きいですね。
―1点差ゲームも、しっかり勝ち切っていますよね。―
花田、秋山と二人のピッチャーがいるので、そこは大きいですね。
―昨年は中止になっただけに、今年の選抜に懸ける思いも強いものがあると思います。―
コロナの状況も落ち着かないですし、今まで当たり前だったことが当たり前じゃない状況が続いています。その中で我々は野球ができるということに感謝しながら、選手たちは高校生らしくハツラツとしたプレーをしてもらいたいですね。
―初戦の相手である上田西高は、非常に打力があるチームです。―
(北信越大会で)星稜高校さんにも勝利していますし、本当に素晴らしいチームだと思います。打力のあるチームですので、やはりウチの投手陣がいかに失点を抑えることができるか。普段やっていることを、いかに普段通りに自分らしくできるか。そこが重要になってくると思います。普段できないことをやるつもりはありませんので、広島新庄らしく戦ってくれたらと、それで良いと思っています。一戦一戦を粘り強く、みんなの心を一つにして戦っていきますので応援をよろしくお願い致します。
広島新庄高校はこれまで春に1回(2020年は出場権を得ながら大会が中止)、夏に2回甲子園に出場し、4勝3敗1分の成績を残している。昨年は交流試合ながら、強豪の天理高校に4対2で勝利。今年のチームも優勝候補の一角に挙げられるなど、チームとしての完成度は高い。
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、多くの関係者の尽力で今年は“通常通り”のセンバツが開催される。当たり前であったことが当たり前ではなくなった世の中で、広島新庄高校が一心不乱に2014年以来となるセンバツでの勝利を目指す。
本取材にご協力いただきました
広島新庄高等学校の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 松浦/写真 矢上、松浦)