取材記事

キーワードは感謝と恩返し。存続危機を乗り越え、なでしこ1部に初挑戦

 アンジュヴィオレ広島

2012年1月に発足したアンジュヴィオレ広島が今年、クラブ創設10周年を迎えた。昨年はコロナ禍による大幅な収入減もありクラブ解散の危機に見舞われたが、スポンサー、サポーターを含めた支援者の多大な協力もあり存続が決定。13人の新加入選手を含む27人の選手で、気持ちも新たにリーグの頂点を目指すことになった。

(選手たちが練習を行う己斐上グラウンド)

チームを取り巻く状況は厳しいものがあったが、昨季はチャレンジリーグWESTで開幕から好調を維持。6勝3分1敗の好成績で、2年ぶりとなるWEST優勝を果たした。総合優勝決定戦で敗れたものの、クラブ史上最高成績となる総合2位で激動のシーズンを乗り切った。

時を同じくして、女子サッカー界にも大きな動きが見られた。2020年7月に一般社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)が発足。なでしこリーグの上位に位置する日本のトップリーグが誕生したことで、なでしこリーグはアマチュアの最上位という位置付けとなった。

2020年シーズンを好成績で乗り切ったアンジュヴィオレは、日本女子サッカーリーグの再編に伴う形で、なでしこリーグ1部昇格が決定。クラブ創設から10年、紆余曲折を経てアマチュア最高峰のリーグにたどり着いた。

なでしこ1部リーグは3月27日に、アンジュヴィオレと愛媛FCレディースの一戦(愛媛県総合運動公園球技場)で幕を開ける。アマチュア最高峰での戦いとなるが、チーム一丸となって目指すものはあくまでも優勝。リーグ開幕が迫るなか、本藤理佐キャプテン、島村公美子副キャプテンに話を聞いた。

私たち選手ができることはサッカーで結果を残すことだけ

(本藤理佐キャプテン)

—いつも何時頃から練習をされているんですか?—

本藤選手:仕事がだいたい16時までなので、練習は17時半から19時半くらいまでです。

—仕事と練習の両立は大変だと思いますが、練習は週何回なのでしょうか?—

本藤選手:6日ですね。体は正直、しんどいです(苦笑)。月曜日だけがお休みですね。

—ちなみに朝は何時出勤ですか?—

本藤選手:8時出勤とか9時出勤で、月曜も仕事がある人は丸1日休みの日はないですね。

—そんな過酷なスケジュールのなか、昨年は過去最高の総合2位でフィニッシュしました。ただ、コロナ禍ということで想像以上に大変な1年だったと思います。—

本藤選手:リーグ自体が開幕できるかわからない状態で、2カ月くらいは活動も自粛でした。その間は自宅でのトレーニングだったので不安でしかなかったです。その中でクラブの存続危機という話もあったので、本当に不安な1年でした。

—モチベーションを保つことも難しかったのではないですか?—

島村選手:そうですね。いつサッカーができるんだろう? 未知の世界ですし「本当にできるのかな?」と、いつもみんなで話していました。

—その中で良い成績を残せた要因は何だったのでしょうか?—

本藤選手:コロナだけではなく存続危機というものがある中で、私たち選手ができることはサッカーで結果を残すことだけでした。勝っていくことでメディアとかにも取り上げてもらえますし、応援してくださるサポーターも増えると思いますので、とにかく結果を残そうと、みんなで一致団結したのが良い結果につながったのではないかと思います。

—いまお話にも出ましたが、コロナ禍による収入の減少などでクラブの存続危機も叫ばれました。—
本藤選手:本当にいろいろなことがありました……。ただ追加スポンサーやサポーターの声を受けて存続が決定。そのときは感謝の気持ちしかなかったです。

良い成績が残せたのは、一人ひとりがしっかりサッカーと向き合ってくれたから

(島村公美子副キャプテン)

—大変な年にキャプテンを務めることになりましたね。—

本藤選手:本当に昨年は大変な年でした。選手ミーティングを多くやって、いろんな人の意見を聞きつつ、みんなの気持ちを一つの方向に持っていくことを常に考えていました。コミュニケーションの場を設けて「みんなで前を向いてやっていこう」という話をずっとしていましたね。良い成績が残せたのは、一人ひとりがしっかりサッカーと向き合ってくれたからだと思います。本当に頼もしい選手たちですし、よくやってくれたと思います。

島村選手:昨年もすごく頑張ってやってくれていたんですけど、なでしこリーグ1部となるとまた違う重圧もかかってくるでしょうから。チャレンジリーグから急に1部になると、チームがうまくいかなくなるときも絶対にあるでしょうし、そういうときは自分もキャプテンと一緒に頑張っていきたいです。

—島村選手から見て、当時のキャプテンはいかがでしたか?—

島村選手:昨年は本当にいろいろなことがあったので、この状況下で選手をまとめるのは大変だろうなと思っていました。その中でチームを引っ張りながら、しっかり結果も残したのは本当にすごいことだと思います。

—島村選手も今年は副キャプテンとしてチームをまとめる立場になりました。—

島村選手:自分はあまりチームをまとめるということは得意ではないのですが、「副キャプテンをお願いしたい」と言われたときは自分の成長につながると思ったので引き受けることにしました。あとはキャプテンを全力で支えたいと思ったのが一番の理由です。昨年もすごく頑張ってやってくれていたんですけど、なでしこリーグ1部となるとまた違う重圧もかかってくるでしょうから。チャレンジリーグから急に1部になると、チームがうまくいかなくなるときも絶対にあるでしょうし、そういうときは自分もキャプテンと一緒に頑張っていきたいです。

本藤選手:頼もしい(笑)!

—島村選手がお話されたようにクラブ創設から10年目という節目の年に、なでしこリーグ1部昇格が決まりました。—

本藤選手:クラブ創部のときから「10年目でなでしこリーグ1部優勝」という目標を掲げていたと聞いています。今回、10年目でやっと1部に昇格することができたので、その目標を叶えるチャンスが巡ってきました。

1年目なので難しいことは分かっていますけど、やるからには頂点を目指して頑張りたいと思います。ただ、個人としてもチームとしても気負わず、チャレンジャーの精神で相手チームにぶつかっていきたいですね。

—不安と楽しみだと、どちらの気持ちの方が大きいですか?—

島村選手:個人的には楽しみの方が大きいです。

本藤選手:私もそうですね。でもチームとしては新加入選手も半分以上いますし、連係の面でもまだ合わないと思うところもたくさんあります。なので、絶対的な自信はまだないですが、練習を積み重ねていけば必ず良くなるという自信はあります。

攻め重視、ひたすら攻める練習だけをやっています(笑)

—開幕まで1カ月を切っていますが、今は戦術を擦り合わせている段階ですか?—

本藤選手:そうですね。ただ戦術と言っても私たちは守備の練習をしたくないので、そこは全くやっていません(笑)。

島村選手:ひたすら攻める練習だけですね(笑)。

本藤選手:ボールを失わないという前提で、保持することだけを考えて練習しています。攻め重視、シュートやパス練習をメインに毎日やっています。ゴールから逆算してのプレーですね。

—ディフェンスの選手の立場からすれば、大変ですよね?ー

島村選手:そうですね(笑)。まあ、でも大丈夫です。守備の練習をしていなくても試合になれば前の選手も前線からボールを追ってくれますし、みんなやらないといけないのは分かっているので。攻め重視なんですけど結構、守備の面で助けられていることも多いですね。

—本藤選手はボランチとして試合を統率するだけではなく、得点も積極的に狙っていきたいとのことですが?—

本藤選手:そうですね。昨年ようやく初得点が奪えたので、今年も積極的にゴールを狙っていきたいです。なでしこリーグ1部で取る得点には重みがあると思うので、積極的に動いていきたいですね。あとはケガをすることなく全試合に絡むことと、人としても成長できる1年にしたいです。

—監督からはどのような指示が出ているのでしょうか?—

本藤選手:基本的にはボールを細かくつなぐパスサッカーで、ポゼッションを重視するスタイルです。フォーメンション自体は他のチームがやっていないフォーメーションということもあり、他のチームとは違った魅力があると思うのでそこを見てもらいたいです。

—では改めて今季の目標を聞かせてください。—

本藤選手:頂点を目指すのは当然ですけど、選手間で決めたのは応援したいと思ってもらえるようなチームになることです。コロナ禍ですけど新体制発表会とかはYouTubeで生配信しましたし、そういうものを今後も企画してサポーターの方と交流を図れる場をつくっていきたいと思っています。

島村選手:私は最終ラインをしっかり統率して、誰よりもチームを支えられる存在になりたいと思っています。その中でチームが上手くいっていないときは良い声をかけてあげられる。逆にチームが締まっていないときは厳しい言葉をかけられる。そういう選手になりたいと思っています。ただ、みんなに言うからには自分も成長しなければいけないので、自分の成長が一番かなと思います。サッカーでは後ろでチームを支えながら、コーナーとかセットプレーで得点に絡みたいですね。

—やはりディフェンダーでも得点にこだわるわけですね?—

島村選手:そうですね。攻め100%のチームですから(笑)。

本藤選手:サッカー面では最後まで諦めない気持ちや熱いプレーをお見せして、例え結果がついて来なくても応援したいと思ってもらえるチームをつくり上げていきたいです。またサッカー以外でも、アンジュヴィオレを応援したいと思ってもらえるような企画を考えていきますので、ぜひ楽しみにしていてほしいと思います。優勝目指して頑張りますので、アンジュヴィオレ広島をよろしくお願いします!

WEリーグ発足に伴い、広島には新たに『サンフレッチェ広島レジーナ』も誕生した。なでしこ1部リーグでアンジュヴィオレが結果を残せば、よりいっそう広島の女子サッカーが盛り上がることになる。

仕事との両立、過密日程など目の前に課されているハードルは決して低くはないが、昨季のコロナ禍、クラブ存続危機を思えば微々たる問題だ。本藤キャプテンが口にした「クラブを支えてくれた全ての人に恩返しをするためにも結果を残したい」という言葉は選手、関係者の総意でもある。アンジュヴィオレ広島が感謝の気持ちを胸に、アマチュア最高峰の戦いに足を踏み入れる。


本藤理佐

Risa Motofuji

1993年8月16日生、広島県出身。ポジション:MF。大阪体育大学出身。2017年7月、AC長野パルセイロ・レディースからアンジュヴィオレ広島に完全移籍。ボランチとしてゲームを統率するだけではなく、キャプテンとしてもチームをまとめる司令塔。

島村公美子

Kumiko Shimamura

1995年2月14日生、高知県出身。ポジション:DF。神村学園高出身。2020年シーズンにディアヴォロッソ広島から移籍。今季から新たに副キャプテンに就任した、強固な守備が持ち味の鉄壁DF。


本取材にご協力いただきました
アンジュヴィオレ広島の関係者の皆様、本当にありがとうございました。

(文・インタビュー・写真/松浦)