COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
史上初の女子甲子園、出場選手が描く未来図
近年の女子野球の盛り上がりに、より勢いが増している。
全日本女子野球連盟より女子野球タウンに認定された三次市にて初開催となった、第7回女子硬式野球西日本大会。
高校、大学、専門学校、一般クラブチームの計27チームが出場し、11月13日~14日の2日間にわたり熱戦が繰り広げられた。
今回は、春からMSH医療専門学校へ進学する2名の選手にインタビュー。
TikTokフォロワー86万人を抱える女子野球TikToker「まつりの」こと松本里乃投手。
そして、松本投手とバッテリーを組み、守備陣の司令塔となって活躍する岩国市出身の村中星南捕手だ。
2人は、高知中央高校硬式野球部に所属し、今夏、女子野球界の歴史を変える、初の甲子園を舞台にした第25回全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝戦へ出場した。
女子野球を取り巻く環境に課題がある中、彼女たちが野球を続ける理由は何か。甲子園での経験、そして女子野球選手が抱える葛藤や将来思い描く夢を聞いた。
大好きな野球は小学生からスタート
―野球を始めたきっかけを教えてください。
松本 私は5人兄弟でお兄ちゃんが2人いるんです。お兄ちゃんたちは野球も上手でテストでも100点を取ってくる秀才タイプ。一方私はあまり勉強が得意じゃなくて…。野球でヒットを打てばお母さんが喜んでくれると思い、小学4年生のとき、地元の少年野球チームで野球を始めました。もともとスポーツが得意だったんです。
村中 お父さんがすごく野球好きな人で、小さい頃からお父さんと野球ボールで遊んでたんです。何の違和感もなく、気がついたら野球をやっていました。本格的に始めたのは、小学2年生のときですね。最初は地元の少年野球チームでプレーしていましたが、環境改善のため、小学6年生のとき、お父さんとお母さんが広島県連盟所属の少年野球チーム「岩国イーストウインズクラブ」を新しく作ってくれました。そこで1年間プレーし、中学では広島レディースに所属しました。
―諦めずに野球を続けられた理由は?
村中 やはり、家族ですね。実は私のお母さん、私が中学1年生のとき、心臓の病気で亡くなったんですよ、突然前触れもなく。私は完全に塞ぎ込んでしまい「もう野球なんてやらない」って自暴自棄になってしまいました。でもそんな私を軌道修正してくれたのは、お父さんと広島レディースのメンバー、そして野球だったんです。
松本 私は小学校の時のチーム環境が悪く、嫌な思いをたくさんしたんです。付き添ってくれる親に辛い思いさせないようにと一旦野球をやめてソフトボールに転向しました。でも、野球を辞めたのは本意ではありません。悔しさを晴らすためには野球しかないと思ったんです。それに支えてくれる家族の存在が大きかった。親が自慢できるような野球選手になろうって決めたんです。
驚きの練習量で甲子園への切符を獲得
―二人とも高知中央高校へ進学されました。初対面での、お互いの印象はどうでしたか?
松本 めっちゃ静かでクールでした、「あー、この子とは仲良くなれないな」と(笑)。
村中 私、人見知りなんですよ。私からの第一印象は、背が高い。里乃は中学の頃からTikTokフォロワー3万人の有名人。私は知らなかったんですが、友達が「学校に、まつりのちゃんいるよね?」って教えてくれて。実際に会ってみたら、意外と背が高かった。動画を見ると、背が低そうに見えたんですよ。
松本 私、身長166㎝だからね。よく言われるんですよ、ちっちゃそうに見えるって。
村中 それに、コミュ力の化け物だと思いました。ぐいぐいくるんですよ。
松本 何それ!(笑)。今はだいぶ心が大人になったのか、少し大人しくなりましたけど、もともとはスーパー元気です。
―高校での野球生活について教えてください。
村中 お互いバッテリーは初なんです。私はキャッチャー、里乃はピッチャー。高校からスタートしました。
松本 先生、ナイスだと思います。よく星南をキャッチャーにしたと思います、なんたって大活躍だから。私はおそらく球速で判断されたのかな。入学したては、そんなに球は早くなかったんだけど。
村中 でも今考えたら、里乃は肩が強くて1番投げれてたと思うよ。
松本 私、握力は右が53kg・左が50kgで、筋肉もすごいんです。TikTokでは華奢で小さくて、ブリブリやってるって思われがちですが、ラグビー部の先生にびっくりされるぐらい走りますよ。
村中 高知中央は、とにかくトレーニング量が多く、きつい練習で有名なんです。精神面でも体力面でも、ギリギリまで追い込むメニューをこなします。
松本 特に冬練はきついですね。ピッチャーの私はずっと走っていました。例えるなら、1日でフルマラソンするレベル。
村中 練習が辛いからこそ、冬練期間に絆が深まります。今日も一日、私たちよく頑張ったね!って。
2人 嫌でも明日は来るんで、やるっきゃない!
松本 おかげで鍛えらえましたね。入学当時は球速約107キロだったのが、今は124 キロです。すごいですよね、練習は裏切りません。
努力は嘘をつかないという言葉を証明できた
―では、甲子園で女子野球大会の決勝が開催される吉報を聞いたときの気持ちは?
村中 実は特に何も思わず…。「あぁ、そうなんだ」が最初の感想です。でも、勝ち上がっていくうちに、甲子園を意識し始めました。
松本 私達は日本一を目指してたんです。日本一に行く過程でただ甲子園があるってだけで。でも決勝が近づくにつれ「やばい、どうしよ」っていう気持ちにはなりましたね。
―実際に、甲子園のマウンドに立った時はどうでしたか?
村中 鳥肌が立ちました。今思い出しただけでも鳥肌が立ちます。私たちは三塁側だったんですが、暗い建物から外に出て行く時に、景色がパーッって開けるんですよ。これはもうアニメの世界だと思いました。「アニメの主人公じゃん、自分!」って思ったな。
松本 他の球場とは全然違いましたね。見慣れているのに行けない場所だったからかな。小さい頃からずっとテレビで高校野球の甲子園大会を見てるからか、全然知らないけど懐かしい場所だと感じました。
―結果は準優勝でしたが、試合では楽しそうな姿が印象的でした。
村中 楽しいしかありません。試合時間は1時間半ほどでしたが、この試合は5分程度に感じました。
松本 言い過ぎでしょ、せめて10分!あまり変わらないね(笑)。私は4球しか投げてないんですけど、1球しか投げてないと感じたくらい。時間が分からなくなるほど楽しかったです。「えー、もう終わりなの!」って。
村中 でも勝ちたかったですね。勝つために頑張ってきたので。私たち、やることも求められることも、男子並みです。
松本 女の子として扱ったら失礼にあたるって、西内先生がよく言っています。練習は本当にきつかったけど、 下手くその集まりが決勝まで来れたんです。努力は嘘をつかないって言葉を証明できたと思います。対戦相手だった神戸弘陵学園は、すごいチームです。才能のある人が行く高校です。他にも強豪チームがありますが、女子野球では、だいたい決まったチームが毎回勝ちます。でも私達は無名でした。そんなチームが決勝に出たんです。本当にすごいことだと思います。
願いはただ一つ、大好きな野球を続けたい
―TikTokなど、SNSで積極的に自ら発信する理由は?
松本 今考えると、昔はまだまだ子どもで、少し調子に乗ってた部分もあると思います。
村中 でも今は違うんだよね、SNS発信する考え方が。
松本 そう。以前は人に認めてもらいたい気持ちが強かったんですけど、今はただ女子野球を広めたい一心。私がTikTokで動画配信することによって自分にファンが付いたら、合わせて女子野球も知ってもらえる。ユニフォームを着て撮れば高校もアピールできるし、女子野球もアピールできる。実際「妹が野球を始めました」とか「ソフト部なんですけど高校では野球始めます」っていうコメントが来るんですよ。すごく嬉しいです。大会のためにTikTokを一時封印しましたが、現在は再開してます。
―春から二人ともMSH医療専門学校に進学予定ですね。
村中 野球を続けて、MSHとして全日本で優勝したいですね。私はまだ、優勝した経験がないんですよ。監督を胴上げしたい!
松本 そう、私もないんですよ、優勝経験が。準優勝まで経験できたのは、すごく光栄なことなんですけど、結果負けてますからね。勝って一番上の景色を見たい。やるからには勝ちたいですね。
村中 高知中央の西内先生、胴上げしたかったな。
松本 現役中は鬼だったけど(笑)、すごくかわいい先生なんですよ。
―これからの女子野球が、どのように発展していくと嬉しいですか?
村中 女子サッカーのなでしこジャパンは、過去ワールドカップで優勝してすごく有名ですよね。でも、日本の女子野球は、世界ナンバーワンをずっと保持しています。その強さをみんな知らないので、ぜひ知ってほしいです。ずば抜けてレベルが高いのに知ってもらえない現実は、野球をやっている身としては悔しいですね。
松本 夢みたいな話ですが、プロ球団に女子チームを作ってもらい、男子と同じようにプレーしたいです。今現在、野球で食べていくのは、女子には難しいですよね。男子は才能があればプロとして野球で食べていける。でも女子にはそういう環境がないから、プレーしたい気持ちを抑えて、野球に携わる方向に逃げていくしかない。でも、それは嫌だな。野球を続けても、どれだけ好きでも、私たちはどこかでけじめをつけなくちゃって気づくんですよ。女性は、家庭を持って子供を産めば、野球を一旦やめなければならない。つまり野球をできる期間が限られてますからね。
村中 そう、ずっと野球を続けたいけど。
松本 野球を続けるのは、女性にとってすごく厳しい。
村中 うん。そういう世界じゃなくなってほしい。
―きっと将来、女性も野球を続けられる環境が整うはずですし、社会全体で変えていかなくてはならない問題だと思います。
松本 もし叶うならば、ソフトバンクホークスに入りたいです。おじいちゃんがホークスファンなので、入ったら長生きしてくれるかなと思って。いや、逆に喜びすぎて寿命縮まっちゃうかな(笑)。
村中 私は広島東洋カープに入団したいです。お父さんがカープ大好きなんですよ。だから私もカープしか見てませんでした。特に小さい頃は、他の球団の存在すら知らず…。カープの選手の応援歌もよく歌ってました。もうずっと、カープ一筋です。
松本 カープファンの応援、すごいですよね。私たちは春から広島でプレーします。広島で女子野球の大会がまた開催されたら、是非応援に来てください。
村中 そう、観客がたくさんいると頑張れます。かっこつけたくなる!(笑)
松本 かっこつけすぎてエラーすることになっちゃうよ(笑)でも、女子野球のパワーをぜひ知ってもらいたいです。広島の皆さん、どうぞよろしくお願いします!
松本里乃
Matsumoto Rino
佐賀県出身。右投げ右打ち。オポジションはピッチャー兼外野手。小学生から野球を始め、現在は高知中央高等学校へ進学。2021年、史上初めて甲子園で開催された全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝戦に出場。TikTokのフォロワーは86万人で女子野球の普及にも精力的に活動。高校卒業後は、広島県広島市にあるMSH専門学校に進学予定。
村中星南
Muranaka Sena
山口県岩国市出身。右投げ左打ち。ポジションはキャッチャー。小学生から野球を始め、現在は高知中央高等学校へ進学。2021年、史上初めて甲子園で開催された全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝戦に出場。小柄ながらもクリンナップを打ち、チームの中心選手として活躍。高校卒業後は、広島県広島市にあるMSH専門学校に進学予定。
本取材にご協力いただきました、高知中央高校女子硬式野球部・MSH専門学校女子硬式野球部の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 大須賀あい/写真 向畑)