COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
一人ひとりが精神的に自立し、自分の芯を見つけられる場所
佐伯高校女子硬式野球部のモットーは、心の成長に重きを置き、全ての選手を公平に受け入れ、大切に育てること。そして、彼女たちの存在は、野球が好きな女子なら誰でも野球ができるまちづくり、さらに、女性が堂々と活躍できる社会づくりに貢献することを目指して活動している。
全国でも数少ない公立高校の女子野球部であるため、部員の大半は県外出身者。寮ではなく民家へのホームステイのような形で下宿生活を送りながら、日々、野球に、勉強に打ち込んでいる。
キャプテンの齊藤きらりさんも、岡山県から親元を離れて下宿生活をする一人。昨年9月にインタビューした際には、緊張しながらも笑顔で応えてくれていた。最終学年として迎えた日々の暮らしや野球への取り組みについて、話を聞いた。
◆周囲に感謝をしながら、能動的に野球に取り組む
―下宿しているのはどんなお家ですか?―
自分にとってはおじいちゃん、おばあちゃんぐらいのご夫婦のお家に下宿させていただいています。すごく優しくて、お弁当だけは自分で作っていますが、あとのご飯は作ってもらっています。今日の練習はどうだった?とか、よく日常会話をしています。ほんと、普通の親子みたいな関係性です。
―1日のタイムスケジュールを教えてください―
朝4時半から5時頃に起きて、1時間ぐらい勉強をしています。それから7時頃に朝ご飯を食べて、8時過ぎに家を出て学校に行きます。授業が終わったら16時から部活の練習。19時に練習が終わって家に帰って、夜ご飯を食べてお風呂に入って、そのあと勉強して23時ぐらいに寝ています。英語と数学が得意で、頑張っています。
―野球に勉強にと忙しい毎日を送っておられますが、息抜きは?―
お母さんと電話でお喋りするのが息抜きです。ときには1時間ぐらい長電話することもあります。ほんと、たわいもない話ばかりですが(笑)。
―野球を始めたきっかけと、野球の魅力を教えてください―
野球をしていた兄の影響で、小学1年生からソフトボールを始めました。野球はほかのスポーツよりも一体感が必要だと思っていて、チームプレーに魅力を感じています。一見すると個人プレーが多いように感じるんですけど、チームの応援があるからこそ、打つことができていると思っています。周りの力による影響が大きいと感じますね。
―佐伯高校女子硬式野球部に入って良かったと感じるのは、どんなところですか?―
主体性を持って取り組めるところです。練習の最初にまずミーティングを行うのですが、適当にグループに分かれてその日の課題などを話し合い、その後全員で話し合います。そして一人ずつの目標を設定します。主体性を持って自分で考えるから、成長できると思います。それと、下宿生活で自分でお弁当を作ったり、自立できるのも大きいです。
―ミーティングで後輩が先輩に遠慮して発言しにくかったり…みたいな雰囲気はないですか?―
全くないです。上級生は下級生が発言しやすいような雰囲気を作りますし、下級生もなるべく発言するように心がけていると思います。練習前のグループミーティングのメンバーも、学年で区切ったりせずランダムで、先輩後輩は関係なし。この春にも新入部員が入ってきましたけど、新入部員だからって特に気を遣ったり意識することなく、自然に楽しい感じで(笑)接しています。練習が終わった後にみんなで絡んでいる様子を見たら、誰が先輩で後輩なのか分からないぐらい、ワチャワチャしていると思います(笑)。
―ピンチの場面では、選手たちが決めた「元気が出る儀式」をして気持ちを切り替えていると聞きました。どんな儀式ですか?―
ジャンケンのことですかね(笑)。良くない流れのときに、なんか気持ちを切り替える方法がないかねぇって話していて。そこでなんとなくジャンケンをしてみたら、「ヨッシャー」っとかって盛り上がって(笑)。そこから自分たちのペースに持っていけたんです。気持ちをほぐす、コミュニケーションの一つという感じです(笑)。
―本当にのびのびと野球を楽しんでおられますね(笑)。SNSの投稿からもその様子が伺えます―
練習計画部、研究学習部、環境管理部、企画広報部という部内組織があって、InstagramとTwitterは企画広報部が担当しています。
―桑田真澄さんからグローブ、株式会社ダイサンからピッチングマシンとヘルメットを寄付してもらったこともSNSで拝見しました―
マシーンやグローブを寄付していただいたおかげで、どんどん環境が充実していっていると感じます。マシーンがあると練習の効率が上がります。これまで使っていたグローブはちょっと大きかったんですが、寄付していただいたものはフィット感があって使い心地がいいです。良い道具を寄付していただいて、本当にうれしいです。
―元カープ選手が指導に来てくれたこともあるのですね―
はい。みんなモチベーションが上がっていました。指導してくださった後は、その成果を感じました。
◆3年間で得た大きな学びを糧にステップアップ
―齊藤さんは女子硬式野球部のキャプテンであり、生徒会長でもあるんですね。元々リーダーシップの取れるタイプだったんですか?―
いや、どうでしょう…(笑)。生徒会長は入学式とか卒業式とかで人前に立って挨拶をすることが多いんですけど、初めは緊張しました。今はもう慣れましたけど。去年、生徒会長になったのと同じ頃にキャプテンにもなったんですが、自己主張をしっかりするタイプで何でも言うので、選ばれたのだと思います。
―人前で話すときには、自分で原稿を用意するんですか?―
何を話すかを考えて箇条書きにしておいて、あとはぶっつけ本番で、そのときの自分の言葉で話します。自分を無理によく見せようとせず、「みんなカボチャ」だと思い込んで話しているので緊張しないし、楽しく取り組めています。
―すごい!度胸がありますね―
そうですかね(笑)。人前で話せるようになったのは、ほんと良かったと思っています。佐伯高校女子硬式野球部を注目していただき、たくさんのメディアから取材をしていただいた経験も影響していると思います。
―高校卒業後の進路は決めていますか?―
管理栄養士を目指して進学したいと思っています。下宿先で毎日お弁当を作る中で栄養について意識するようになったのですが、ちょうどその頃、私が大好きな大谷翔平選手がコロナ禍のアメリカで栄養管理をすることが難しいということを知り、自分が支えたいと思いました。元々、海外で働いてみたいという憧れもあったので、海外で活躍するスポーツ選手を食事面からサポートすることが目標です。
―将来の夢も、佐伯高校女子硬式野球部だったから見つけられたということですね―
はい。夢を見つけられたこともだし、親元から離れたことで精神的に大人になれたような気がしています。料理を作ったり洗濯をしたり、自分一人で頑張れるようになったし、自信もつきました。きっと佐伯高校女子硬式野球部は自分を見つけられる場所なんだと思います。ここで得たことを生かし、好きなことに自由に挑戦をして生きていきたいと思っています。
―今年は高校最後の夏です。夏の全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝は甲子園であるそうですね―
秋に西日本大会が三次市でありますが、私たち3年生は夏の大会が最後になります。甲子園はやっぱり憧れ。一度立ってみたいという思いはあります。頑張りますので、応援よろしくお願いします!
佐伯高校女子硬式野球部は全面を練習に使用できるグランドがあり、ピッチングマシーンを使用した打撃練習も可能。徒歩圏内にある佐伯総合スポーツ公園野球場での自主練習もできる。また、技術指導する外部コーチやフィジカルトレーナーが帯同しているなど、指導スタッフも充実している。
そして何より、下宿先の提供や練習用具の寄贈、また日々の練習のサポートなど、地域の方々から愛され、女子硬式野球部部員をわが子のように育てていきたいと思い、支援してもらえる環境が、佐伯高校女子硬式野球部の大きな魅力の一つだろう。
私立強豪校にも劣らない環境で、野球を思う存分プレーしたいという一心で県外から佐伯高校女子硬式野球部に集まった、齊藤きらりさんをはじめとする部員の皆さん。
女子野球部という枠を超え、地域活性化のトリガーとしての期待がかかる彼女たちの活躍に、今後も要注目だ
【齊藤きらりKirari Saito】
岡山県早島町立早島中学校出身。落ち着きのある彼女だが、三代目J Soul Brothersが好きで、中でも登坂広臣さんのファンという女子高生らしい一面も。佐伯高校女子硬式野球部の活動の中で最も思い出深いのは、今年5月1日に行われた神村学園との試合。自分の打球で初めて神村学園にサヨナラ勝ちした喜びが忘れられないとのこと。
【広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部】
「全ての部員の『20年後の幸せ』を第一とした活動」を理念に掲げ、野球選手として高いレベルで故障なく活躍し続けることができること。さらに、社会人として社会の中核的な役割を担い、周囲から評価されること。この2つを軸に、部員一人一人を大切に育成している。自らが練習の目標を立てて結果を分析し、次の練習へ向けて改善案などについて話し合うなど、部員主体の組織運営に取り組んでいる。
本取材にご協力頂きました広島県立佐伯高等学校女子硬式野球部の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー前岡/写真矢上・前岡)