COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
食の力で選手をサポート。スポーツ栄養から広がる可能性
子どもの健やかな成長のためには、バランスのとれた食事が一番
ジュニア選手を見守る保護者の皆さんに、強くお伝えしたいことは1つ。
成長期であることを重んじ、スポーツは二の次として考えてください。
身長を伸ばしたいと悩むお子さんが多くいますが、その際、小まめに体重と身長、体脂肪率を計りましょう。女子の場合、順天堂大学が開発したアプリ「スラリちゃん」を使うと便利です。成長スパートのサインを見逃さないことが、結果的に身長の伸びへと繋がります。
男子も同じく、身長と体重を小まめに測りましょう。身長2cmの伸びに対し、脂肪以外の体重(※LBM:筋肉・骨・内臓・血液)1 kgの 増加が理想です。この指標で、エネルギー不足にならず身長もしっかり伸びている参考となります。
※LBMの求め方:体重(kg)×(100ー体脂肪率(%))÷100
成長期は特に、骨を作る大切な時期です。骨密度が高まるのは20歳がピーク。それまでに骨を丈夫にする貯金ができないまま年を重ねていくと、早い段階で骨折や骨粗鬆症を迎えることになります。今はスポーツが大事かもしれませんが、数十年後も健康でいることを考えながら食事を摂って欲しいと思います。
また、筋肉を増やしたい選手も多くいます。よくある間違いが、タンパク質やプロテインを毎食のように、がっつり摂り入れることです。過度に摂りすぎてしまうと、タンパク質は体脂肪に変わります。食物中のタンパク質は複雑な過程を得て分解され、肝臓から腎臓に運ばれて尿となって排泄されます。特に動物性のタンパク質を大量に摂ると、尿が酸性に変化。すると尿に含まれるカルシウムの再吸収が減るので、骨を作るカルシウムが減少。つまり、タンパク質の食べすぎで、骨が弱くなり怪我(疲労骨折)や病気(結石)に繋がることもあるのです。
また、腸と脳は相関しています。腸が弱ると、鬱や無気力という症状も出てきます。
子どもの頃からプロテイン飲料を飲んでもいいかという質問もよくいただきますが、基本ジュニア選手には必要ないと答えています。
あらゆる栄養をまんべんなく摂ることが、強い体を作る基本中の基本です。
ベストな状態で競技に臨み、人生も豊かにするスポーツ栄養
食は、スポーツにおける可能性を大きく伸ばすことができます。もちろん食だけで勝つことはできません。しかし食のせいで負けることはあります。特にトップ選手を見ていると、勝敗の僅差は食です。試合中、水分補給で何を飲むかという、緻密な世界に入っていきます。試合後半で脱水症状となり足がついていかない、後半バテバテになり太刀打ちできない事態を回避するため、オリンピック出場選手などは、その人に合ったオリジナルのスペシャルドリンクを作り、タイミングを計算して飲んでいます。
最後の1mm、1秒を食で埋める。
長期的なスポーツ人生を考えて食事を摂る。
この2つを、ぜひ大事にしてもらいたいと思います。
これまで私は200人以上の選手に栄養アドバイスを行ってきました。
携わった選手やチームが、一番欲しい目標を達成してくれる瞬間は、本当に嬉しいものです。私は、将来活躍するスポーツ選手を育てることはもちろん、怪我をせず長くスポーツを続けられる選手を、食で育てていきたいと考えています。
怪我を繰り返し、大好きなスポーツを辞める選手をたくさん見てきました。食で、アスリートたちに悲しい思いをしてほしくありません。
また、スポーツ栄養はスポーツ選手のためだけの考え方ではありません。
自分をつくるために、なりたい自分になるための情報ツールとして役立ててほしいと思います。
「自分の体を、いかに自分で作っていくか」
スポーツに限らず、受験、就職など、ここぞという力を発揮したい場面でスポーツ栄養の知識が役立ちます。
日々を健やかに、将来を健康に生きるためにも、スポーツ栄養に興味を持ってもらえると嬉しいです。
上原寛恵
Hiroe Uehara
広島県北広島町出身。管理栄養士として病院に勤めるなか、スポーツと食の関係性に気づき2014年に公認スポーツ栄養士の資格を取得。同年、ANSER³(アンサーキューブ)を開業。県内の陸上長距離選手、実業団卓球、実業団ラグビー、ソフトテニスなど、幅広いスポーツ選手のコンディション管理から試合前後の栄養アドバイスを行う。個人への指導だけでなく、合宿帯同、調整サービスも実施。アスリートやスポーツチームのパフォーマンスを食で支える。