COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
カヌー日本代表選手から研究者へ、目指すは国際競技力向上、地域活性化の一助になること
拠点を広島に、スポーツの魅力を発信
ご縁をいただき、広島経済大学へ赴任したのは、2021年の9月です。スポーツ経営学科にとって、専任の女性教員は初とのこと。未だスポーツの世界では、女性の社会進出比率が低いのが現状です。多くの活動を通してスポーツ界における女性の地位向上に貢献できればと思っています。
私が担当する授業はスポーツ社会学やスポーツ実習です。スポーツが社会における役割や価値、スポーツが持つ魅力や課題点など、スポーツを通して社会を見るという視点で学生に教えています。スポーツから見る社会と、社会から見るスポーツは似ているようで異なります。生涯を通して多くの人がスポーツと関わる、そのような社会を目指すためにもスポーツの社会的価値を伝えていくことが大切だと考えています。
私自身の研究活動としては、主にトップアスリートやトップコーチに着目し、キャリア形成に影響を与える要因や特性に関する研究に取り組んでいます。こうしたテーマに着目するのは、私自身の経験が影響しています。マイナースポーツでは、指導者として生活できる人は一握りです。私は現役を引退しても、指導者になりたいとは思いませんでした。なぜかと言うと、カヌーの指導者という職業が確立されていなかったためです。
日本代表選手を指導している一流指導者を対象に調査を行ったところ、彼らの多くはトップアスリートの経験を有していることが分かっています。しかしながら、低い割合にはなりますが都道府県レベルの選手だったケースもありました。一例になりますが、その方は大学時代に海外のスポーツ系大学に留学をしてコーチングを専攻していました。帰国後にトップリーグのクラブチームで通訳としてスタッフに加わり、その後、当時の監督からのリクルートでコーチとしてのキャリアをスタートしていきました。キャリアを形成する上では、個性や人との出会いが重要となります。
昨今、アスリートが次のキャリアに進む時に、スポーツを「頑張った」、「継続してきた」だけではなく、スポーツを通して何を得たのか、何ができるのかが求められる時代になってきました。また、人とのつながりもキャリアを形成する上で非常に重要な要素となります。私自身もトップアスリートの経験や海外経験だけではない、プラスアルファが今のキャリアを築く上では重要であったと感じています。
スポーツをするということに注目が集まりがちですが、スポーツをみる、スポーツを支える、育てるといった関わりもあります。スポーツというツールを通して何を得るか、またどのような能力を高めるべきか、目指すキャリアを早い段階からイメージし、準備することが大切なのです。
スポーツの可能性を切り開くのは新しい視点
広島県はスポーツの可能性に溢れた土地です。ひとつは、広島東洋カープの公式戦が開催されるマツダスタジアムが広島駅から歩いて数分の場所にあること。常に生活と隣り合わせでスポーツが存在し、生活の中で触れる機会がある環境は、非常に魅力的です。また、観光需要としてもスポーツは成り立ちます。スポーツをツールにして地域活性化にどうつなげるかが注目されています。スポーツと観光、スポーツと平和、といったスポーツと〇〇といった掛け合わせ、そしてプラスアルファの付加価値が重要です。
SAHは、スポーツコミッションとして、広島のスポーツのハブ機能という重要な役割を担っていると思います。人口の減少などにより人がスポーツを選ぶ時代となり、新たな視点からスポーツを盛り上げていくことが期待されています。アウトドアやレクリエーションなどを親しむ愛好家をスポーツへ取り込むことも重要なことではないでしょうか。まずは、広島にスポーツ実施者として数字に表れてこない愛好家がどのくらいいるのか、彼らが何を求めているのか、データを収集することも大切な一歩だと思います。
スポーツが発展するためには、まずスポーツに関わる人口の増加が重要となります。人生には、年齢や環境の変化がつきものですが、ひとりでも多くの方が生涯に渡りスポーツに関わってもらえる、そのような地域社会を目指し、私の経験や研究が広島のスポーツの発展にお役立てできれば嬉しいです。
山田 亜沙妃
Asahi Yamada
広島経済大学准教授。父の影響で10歳からカヌースラローム競技をスタート。ナショナルチームとして活躍し、全日本選手権大会優勝やアジア選手権大会銅メダルなど輝かしい実績を残す。東京オリンピック・パラリンピック組織委員を務め、現在は、日本カヌー連盟常務理事や強化部長も務めながら、研究者として日本の国際競技力向上に貢献。