COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
スポーツ熱に溢れた広島に、サッカー文化を根付かせたい
皆さん、こんにちは。2005年から2016年までサンフレッチェ広島でプレーした佐藤寿人です。広島で過ごした現役生活12年間では、3度のJ1優勝を含め、幸せな体験をすることができました。一方で、J2降格などの苦しい思いもしましたが、どんな時も戦い続けることができたのは、サンフレッチェ広島を支えてくれた皆さんがいたからこそです。本当に感謝しています。
僕は現在、解説者や指導者として全国を飛び回っていますが、今回は、広島にいた頃の思い出や、未来の広島のサッカーについてお話ししたいと思います。
広島で感じた、スポーツが持つ影響の大きさ
広島の印象として真っ先に思い浮かぶのは、スポーツと共に街が歩んできた歴史の長さです。そして広島のスポーツで思い浮かぶのは広島東洋カープでしょう。戦後の復興の象徴として球団が誕生したという背景もあり、県民の皆さんの期待も大きかったのだと思います。“カープを支えるんだ”という情熱が、カープを強くし、復興の原動力にもなったのだと思います。
そういう意味では、カープをきっかけに、『スポーツを観る・応援する』という習慣が、県民の皆さんの暮らしに根付いてきたのだと感じています。僕は千葉や仙台、名古屋など、さまざまな場所でプレーしてきましたが、『習慣的にスポーツを観る』という文化があるのは、広島県ならではの特徴だと思います。
広島で過ごした12年間で、スポーツの影響力を強く感じたのは、さまざまな啓発ポスターに、サンフレッチェやカープの選手が登場していることです。こういった取り組みは、他の県ではなかなか見られません。メッセージ性の強いポスターやCMに、スポーツ選手が起用されるのは、それだけ発信力や影響力を期待されているということですし、起用していただいた時は、注目度の高さを肌で感じました。
今でも時々、友人から「寿人のポスター見つけたよ」と連絡をもらうことがあります。5~6年前のポスターをいまだに掲示してもらえていることに驚きもありますが、うれしさも大きいです。こうした広島ならではの環境は、『地域にはスポーツが必要だ』と認めてもらえているようで、本当に光栄なことだと思っています。
サポーターとの忘れられないエピソード
“広島の人は熱しやすく冷めやすい”と、よく耳にします。ただ、個人的には、そう感じたことはありません。それはサンフレッチェがJ2に降格してしまった時、チームが一番苦しい時に、全力で支えてもらったという思い出があるからです。「おらが街のクラブなんだ」、「自分たちが応援するんだ」と、叱咤激励してもらえたことが印象深く残っています。
サポーターの皆さんとのやりとりで、忘れられないエピソードがあります。
僕がサンフレッチェに加入した頃、『戦え!広島』と書かれた横断幕が、ホームスタジアムであるエディオンスタジアムに掲げられていました。僕はその言葉に違和感を感じずにはいられませんでした。“一緒に戦おうではないのか!?”と疑問に思ったのを強烈に覚えています。
広島の皆さんのスポーツに対する熱い想いがにじみ出た言葉だというのは分かったのですが、プロスポーツはファンあって成り立つものです。サッカーに関して言えば、選手とチーム、そしてサポーターが一つになって戦う必要があります。そういう意味では、『戦え!』ではなく『共に戦おう!』ではないだろうかと。そう感じたので、サポーターの皆さんと意見交換をしながら、選手とサポーターが一丸となって戦うにはどうしたらいいのかを探っていきました。直接、練習場まで話をしに来てくれた方もいました。
それまでは、選手が自らの考えを積極的に発信することはあまりなかったのかもしれませんが、サポーターの皆さんも熱心に話を聞いてくれて、最終的には横断幕の文字が『共闘』に変わったように記憶しています。心が一つになったと感じた瞬間でしたね。そういうスポーツに対する情熱や、選手と向き合う姿勢というのは、広島特有の“熱さ”だと感じました。
広島のサッカーを未来につないでいくために
2024年にはサッカー専用スタジアム(HIROSHIMA スタジアムパーク PROJECT)が完成予定です。今年ついに着工し、これから完成に向けて、さまざまなプロジェクトが動き出していくはずです。
広島はどうしても野球のイメージが強いですが、カズ(森﨑和幸)や(森﨑)浩司のような地元出身の選手がどんどん増えて活躍することで、応援してくれる方が増えて、サッカーが、より一層文化として広島に根付いていくのではないでしょうか。身近な場所に、サンフレッチェ広島というクラブがあって、Jr.ユースもある。そういった環境があるだけに、『サンフレッチェの選手になりたい』という憧れを持ってプレーする子どもたちが増えるといいなと常々感じています。
サッカーをしている子どもたちに、もっとサッカーを好きになってもらうためには、長期的な視点で取り組んでいくことも必要です。
サンフレッチェ広島は今年、クラブ30周年を迎えますが、これから先も歴史をつないでいくことが大事ですし、広島でサッカーをしている少年少女にとって、サンフレッチェは『一番輝いている、憧れの場所』であり続けなければなりません。毎年タイトルを獲得できる強いチームを築き上げていくことはもちろんですが、それと同じように、世界に羽ばたいていく選手を育成することも大切です。そのためには、育成年代にいかに投資をしていくかという視点も大事になってきます。
現在、僕はサッカー解説者の仕事をする一方で、新しいプロジェクトの準備も進めています。それは『広島で育成年代のクラブの立ち上げること』です。
広島にはサンフレッチェのJr.ユースはありますが、そこでプレーできる選手はほんの一握りです。ただ、ユースに入れない子どもたちにも、伸びしろは大いにあります。伸びるタイミングは人それぞれですから、その一握りからもれてしまった選手も、本人の努力次第では一気に伸びていく可能性があります。そうした選手たちが、より高いレベルで競技を続けることができる環境を用意することができれば、広島のサッカー全体の底上げにもつながるのではないかと考えています。
そのためには、『土台』となる部分を、よりしっかりとつくり上げていく必要があります。 では『土台』とは何か。僕は、広島の子どもたちがプレーする環境を整え、指導者の質を高め、その指導を受けられる機会を提供することだと考えています。
もちろん、プロ選手がプレーする環境、トレーニングができる環境を時代に応じたものに整えていくことも重要です。また、サッカーに限らず、広島のスポーツが、さまざまな企業や人々に支えられていることは事実ですから、今後はそのつながりを深めていくことも必要だと思っています。広島にサッカーが文化として根付いていくために、僕自身、もっと広島のサッカーに携わっていきたいと思っています。