COLUMN / INTERVIEW コラム・取材記事
広島県における観光とスポーツの融合
多様性ある広島のスポーツに期待大
スポーツについて言うと、多種における競技レベルの高さが広島の特徴だと思います。野球、サッカー、バスケットボール、ハンドボール、ホッケー・・・。これだけスポーツが盛んな県は他にありません。
それに加え、広島が持っている土壌が、スポーツの可能性を大きく広げていると感じています。川、海、山が織りなす豊かな自然。川でSUPができ、雪山ではウィンタースポーツ、海辺ではサイクリングを楽しめます。スポーツに於いても多様性を生み出せる広島は、素晴らしい環境に恵まれているのです。
スポーツアクティビティとして今話題になっているその一つが、シティロゲイニング。街を走るフィールドにして、地図を頼りに指定されたスポットを周る新しいスポーツです。発祥は広島。これまで宮島や呉市で開催され、大きな反響がありました。観光要素を多く取り入れているため、広島の観光につながる新たな取り組みになると感じています。
市内中心部からもアクセスしやすい湯来町では、シャワークライミングが注目を浴びています。清流を進み、滝を登ったり、滝壺にダイブするダイナミックなプログラムで、大自然を満喫できます。
冬のスポーツでといえばスキー。県北にあるスキー場を夏場に利用して、斜面をマウンテンバイクやバギーに乗り、ゲレンデや森の中を走る観光プロダクトも生み出しました。
このように、家族でも遊べるスポーツ感覚を取り入れたプロダクトが、観光において大変増えているのです。
女子野球も広島で盛り上がっています。廿日市市と三次市が全日本女子野球連盟より女子野球タウンに任命されました。11月には女子野球の全国大会が開催されます。この時、ただ大会を目的とするだけでなく、周辺の市町と連携し、県北東部や広島の街をツアーして周る取り組みも構想中です。せっかく広島に来ていただけるなら、喜んでもらいたい。「広島に来てよかった!また来よう!」と思っていただきたいのです。
未来を見据え、地域、個人で当事者意識を
観光の裾野は広範囲にわたります。観光地、宿泊、食事だけが観光産業ではありません。
僕が強く願うのは、地域の人たちが「当事者意識を持つこと」です。自分たちにできることはないかと、地域の方々が心から思えることが、とても大切だと思っています。
先ほどの三次市の例でいうと、大会に関してはSAHが運営に携わります。では、三次市民は何をするのでしょうか。女子野球の大会が自分たちの街で開催される意識を持ち、道に迷っている人がいたら声をかける、街を綺麗に保つためゴミを拾うなど、当事者として振る舞うことができるか否かがすごく大事だと思うのです。
もしかすると、野球とは関係ないように思われる文房具屋さんに、スコアを書くための赤いボールペンが必要になったと駆け込む人が現れるかもしれません。我が事として向き合うことが、一番大切だと思います。
僕たちは、この当事者意識をテーマに、広島の魅力発信に協力していただける方を「HIT ひろしま観光大使」として昨年度から募集し任命しています。応募資格はただ一つ「広島が好き」なこと。こうして広島の観光に携わる人、広島に住んでいる人が当事者になれば、広島の観光は目覚ましく発展すると思ったのです。スポーツも観光も、地域の人たちが当事者になることで、大きく変わると確信しています。
数年前、広島カープが優勝した年、僕は平和大通りで開催されたパレードを見に行きました。おじいちゃんもおばあちゃんも、子どもも、女性も男性も、みんながカープのユニフォームを着て優勝を祝う様子に感動し、涙が出ました。まさにこれは、多様な人々が、そして地域が一体になっている証です。
こんな光景は、東京では絶対にありえません。野球のユニフォームをまるで普段着のように着て街に出ること自体ありえません。ジャイアンツのユニフォームを、家から東京ドームまで着ていく人もいません。それほど広島に浸透しているカープと、カープを愛する広島県民。あのシーンこそ、他人事ではなく、我が事としている確固たる証拠なのです。
東京暮らしが長かった僕は、広島に帰る気はありませんでした。失礼な言い方になりますが、広島に帰っても面白い仕事なんてないと思っていたし、魅力も感じていなかった。しかし5年前故郷に帰ってきた時、見慣れていたはずの広島の風景を、とても美しいと感じたのです。
皆さんの身近にある当たり前は、誰かにとっては見たこともない素晴らしい景色かもしれません。観光もスポーツも「自分ごと」として関わり、旅の選択肢として広島を一番に選んでもらえるよう、より魅力的で価値ある広島を、共に創っていきましょう。
山邊昌太郎
Yamabe Shotaro
一社)広島県観光連盟(HIT) チーフプロデューサー 兼 常務理事事業本部長
1970年生まれ。広島県出身。京都大学工学部卒。
1992年(株)リクルートに入社。新規事業開発、就職関連情報誌編集長を経て、2008年に退社。その後、数社で事業開発を歴任し、2016年Calbee Future Labo立ち上げに伴いクリエイティブディレクターとして着任。2020年4月より現職。広島大学客員教授。