取材記事

静寂から生まれる注目のパラ競技~銅メダル獲得の女子ゴールボール~

ゴールボール日女子日本代表 高橋利恵子

 パラリンピック競技で注目を集めたゴールボールは、全盲から弱視まで視覚障がいを持つ人を対象とした球技だ。公平性を保つため、選手は全員アイシェードを着用し、視覚が遮断された真っ暗な状態でプレーする。バレーボールと同サイズのコートの両端には9mのゴールが用意され、各3人で構成される2チームが、鈴入りのボールを転がして相手ゴールを狙う。

独特のフォームからシュートする面白さ、感覚と音を頼りにゴールを死守し、視覚が遮断されているにも関わらず、まるで動きが見えているかのようなプレーが話題となり、注目を浴びた。

広島県出身ゴールボール女子日本代表の高橋利恵子選手は、東京2020パラリンピックに初出場し銅メダルを獲得。守りの要であるセンターを担い、今後の活躍が最も期待されるゴールボールトップアスリート。

今回は、東京2020パラリンピックを終えた彼女に、試合での経験、ゴールボールの奥深い魅力、そして故郷である広島について伺った。屈託のない笑顔で、時々広島弁も混じりながら明るく話してくれた彼女の、素のままの魅力に釘付けです! 

最高の舞台を経験、向かう先は次回パリ大会

―銅メダルを獲得された率直な気持ちを教えてください。

もともと金メダル獲得を目指していたので、準決勝で負けてしまいとても悔しかったです。しかし気持ちを切り替えて、色は違えどメダルを持って帰れたという点では、嬉しく思っています。

―一番印象に残っている試合は?

どれも印象深いのですが…。強いて言えば、準決勝でのトルコ戦です。初戦のトルコ戦では大敗してしまったのですが、準決勝では気持ちを切り替えて挑めた分、負けがとても惜しい試合でした。あの試合を乗り越えれば金メダルを取れていた…という思いがあります。

(高橋選手:左から3番目/写真:有限会社エックスワン)

―世界の強さを実感されたと。

トルコはゴールボール女子の中で世界ランキング1位。とても強いチームです。それに加え、私自身、すごく好きなチームがトルコなんです。実は、日本とトルコは、とても仲がいいチーム。試合前後に話をしたり、ちょっとふざけ合ったりと、パラリンピック以前から親交があったので、久しぶりに試合ができてすごく楽しかったです。今回のパラリンピックでは、アスリートラウンジでトルコチームと少しお喋りをしたり、プレゼントを交換したり、更に親交を深められたのも嬉しかったですね。

―パラリンピック初出場。初めてコートに立った瞬間の気持ちは。

すごく緊張してしまい、それが初戦に出てしまいました。初戦の相手が一番のライバルであり、一番仲良しのトルコです。コロナ禍で一年半近く遠征にも行けておらず、力が通用するかという不安も重なり、頭の中がごちゃごちゃでした。結果、自分のプレーができず悔しい思いをしました。しかし、周囲の人に「最高の舞台を楽しまんと!」と言われ気持ちのスイッチを切り替えることができたんです。その後の試合はとても楽しく挑むことができました。

―チームには北京大会から4大会連続で出場した浦田理恵選手など、経験豊富な選手も多く選出されていますが、先輩選手からかけてもらった言葉で印象的だったのは?

同じセンタープレーヤーである浦田選手からは、パラリンピックが始まる前からずっとお世話になっています。初戦で私が崩れた時、「理恵がいるから全力でやって来い」って言葉をかけてもらったり、「パラの舞台を楽しまんと」という言葉も理恵さんからかけてもらいました。「ああ、そうだな。今ここに立たせてもらっているのは特別なこと。全員が出られる場所ではない」と考えられるようになり、「もっと楽しまんと、選ばれんかった人に申し訳ない」という気持ちにもなりました。本当に心強い先輩です。

(写真:有限会社エックスワン)

―日本代表チームの強みを教えてください。

チーム力に尽きると思います。選手もスタッフも含めて、チーム全員で戦ってきました。理恵さんだけでなく、皆さんが私を元気づけようとあの手この手で励ましてくれました。もちろん、それは私だけではなく、チーム全体で誰かが誰かを助け支える関係性が築けています。

私は申し訳ないくらい普段から自然体。何も考えていないかもしれない(笑)。完全にチームの皆に甘えさせてもらっています。

―パラリンピックまでのモチベーション維持は。

「大変でしょう」ってよく聞かれるんですが、実はあまりそんな風に思ってないんですよ。ただゴールボールが楽しいからやっているだけで、楽しくなくなったらもういいかなって思うかもしれない。でも楽しいと思えるうちは、最高の舞台に行こうという気持ちでずっと続けてきました。だから「パラが一年延期されてどう思いますか?」って聞かれても特に何も感じませんでした。「楽しい」が一番の原動力になっていますので。楽しくなかったらできないと思いますし、ここまで続かないと思います。

―高橋選手は「ディフェンスの要」として、今後も日本代表としての活躍が期待されています。

今回、久々に世界のチームと対戦し自分のレベルを知ることができ「もっと強くなりたい」と心から思いました。次回パリ大会に向けて、銅メダル以上のメダルを目指さなくてはと思っています。もっともっと、個人としても強くなりたいです。